HIRO EATS THE EARTH

地球まるごといただきます

チョコレートボックス事件(Dakar)

23日に予定していたカーボベルデへの出航は船の準備のためにさらに延期しなければならないことをロニーから明かされた。元々23日という日付にしていた理由はその日が自分のパスポートの満了日だったから。ロニーはそれがネックになっているから一度セネガルを出国してまた入国するよう要求してきた。出航の準備を済ませるまでの日数としてはあと最低でもあと8日間は必要であると言う。

ぼくは内心、その8日間というのぼくにとって都合が良いように早めに言っているだけで実際は倍くらいかかるだろうと彼の口調から感じられる切迫感から察した。というか、よく分かってはいないけれど船の設備も、クルーの航海のレベルも、全てひっくるめてこの男の理想の状態に辿り着くまでにはぶっちゃけ1ヶ月間くらい必要なのではないかと思えてきた。この船は目標を立てても様々なトラブルが原因で修正し、どんどん遅れていくという流れの中にあるように思われた。その様相はかつて自分が務めていたベンチャー企業のそれと重なる。とりあえず自分はモーリタニアに入国してまたセネガルに帰り、滞在日数を回復させるということで合意した。

突然キッチンからものすごい形相でロニーが出てきた。その手にはパンにつけて食べるためのチョコレート容器が。僕がほとんど食べ切ってしまい、それでもまだ食糧庫に置かれているその容器がロニーに火をつけたらしく、ブチギレられた。完全に感情任せの怒りだった。空の容器をぼくのいるところの近くの床に叩きつけて「ユーアーアンソーシャル!」とか「お前は間食が多すぎる!」とか、感情的な言葉を投げつけられて罵倒された。チョコレートの容器の中にはまだチョコレートがほんの少しだけ残っていたから次のパンを食べる時に食べきろうと思って置いていただけであり、倉庫には他にたくさん入っているチョコレート容器もあったから特に迷惑ではないと考えていた。それにぼくはずっとロニーから「好きなだけ食べろ」と言われていたから食べていただけであり、今日まで食べる量についてまで文句を言われたこともなかった。この一時の感情の爆発で余計なことまで言われるのは気持ち悪い。が、こうして書いている瞬間はちゃんと思うところを書けるのだけど、この言われる瞬間ではもう体が防衛反応で完全に萎縮してただフリーズしているだけだった。

このブチギレで自分の中の張り詰めていた糸がぷつんと切れた感じがした。

その後のランチでは何食べようとせず、ロニーも反省したのか「すまない、頭の中がやるべきことを抱えすぎていて言いすぎた。遠慮なく食ってくれ」と促してくれていたのだけどもう嫌だった。気分が一切乗らなかった。

ロニーの素晴らしい人間性を頭では理解しているのだけど、とにかく怒る瞬間が恐ろしい。「このままでは危ない」と直感的に思った。ふと、この感覚はDVパートナーから抜け出せない人のそれと少し似ているのだろうなと思った。相手から明確に危害を加えられているにもかかわらずそれがその人の全てなのではなく、優しい時もある。だから自分が器を広げて相手が良い状態でいられるように努力しようと。

そう思い直した時に別にもう遠慮はいらないと思った。

とりあえず今日のところは船にいたくなかったのでコリーナの家に行かせてもらうことにした。ロニーも「それが良い、なんなら数日休んでくれても構わない」と促してくれた。

上陸し、9kmくらいの道を歩いた。

コリーナとジャカリヤはすごく歓迎してくれてありがたかった。

彼らに事情を話すとすぐに「ロニーと何かトラブルがあったんだ思っていた」と納得してくれた。ジャカリヤはベオママに乗船してきた時、ぼくとロニーのやりとりを見てコリーナに「ロニーのヒロに対する接し方は良くないよ」と話していたらしい。ああ、やっぱり、あれは私だけがおかしいと思っていたわけではないのですね。

それから二人とも「ちゃんとあなたからも彼に要求することは要求した方が良い」と勧められた。確かにそう。強く出られると頭がフリーズしてしまって何も言えなくなってしまう自分はとりあえず穏便にカーボベルデまで行くために彼のいうことを飲み込んできた。それがどんどん延期になって結局ぼくが耐えられなくなってしまった。英語がまともに話せない上にロニーは頭の回転が早くてこちらの言うことを待ってくれるイメージが持てず、そもそも無賃で乗せさせてもらっているという、上下関係が出来上がっている感があったので要求なんてとても訴えられるイメージがなかった。とはいえそれは自分の中での想像の域をでないのでちゃんと動いて確かめてみる方が良いのだろう。

それでも、うーん。話し合い以前の問題だと直感してはいるんだよね。まあ永劫わからないことなんだけれど。なんにせよ、どうやってブレイクスルーをするか考え直すのが良さそうだl。

夕食、ジャカリヤがとにかく「Eat!」と促してくれてほっこりした。

ジャカリヤのことチーズを巻いた三角形のはるまきのような食べ物が絶品だった。彼はとても器用なのである。