新しくセイリングクラブに一艘の船が来た。セイリングクラブにたくさん停泊しているボートの向こう、一番沖合に一際大きな船が見えた。その船長はモルのブラザーだという。モルに紹介してもらってその船長と話をすることに。
その男性はヨーロッパのどこかの国の顔立ちで、ファンキーな印象だった。セイリングクラブのバーのテーブルを囲む男たちの中でも一際大きな声で笑っていた。モルがつないでくれて一緒のテーブルに座ったが、彼はずっと元から一緒に座っていた人たちとフランス語で何かの話を続けていた。
完全に新参者でただ「ここから連れ出してくれ」という頼み事をするだけの自分がその楽しい話に割って入る勇気はない。
談笑の空隙に僕の事情を知っている一人が僕の目的を船長に伝えてくれて、ようやく船長はこちらに注意を向けた。先ほどまでの談笑の勢いがなくなり品定めをするように僕を見て「とりあえず今日到着したばかりだからそういう話は後にしてくれ」と言った。
自分は自己PRに前のめりだったので「自分に何か手伝えることがあったら手伝いたい」と伝えると「じゃマッサージをしてくれ」と言われ、「あ、やります」と即答すると「冗談だ」と返された。
「俺はスイス生まれの海賊ロニー。人はみんな自由。俺は一ヶ月後にカーボベルデに向かうと予定だがその前にお前を乗せてくれる人が現れるかもしれないだろ?まあとりあえずまた後で、な。」
というわけで今日のところは落ち着いてまた動向を伺うことになった。
「海賊」というのは比喩的な表現だと思うけど、その言葉に似合うエネルギーを彼から感じる。ロニーは頭の回転のキレが半端じゃなく、自分のようなのそのそした芋野郎では仲良くなれなさそうだと感じた。
しかし、モルはロニーの船のお手伝いをしたことがあるらしく、ブラザーだと言う。良い人の友達は良い人だということは旅の感覚でわかっているので、もしかすると、彼がこの停滞を打開するキーパーソンになってくれるかもしれない。
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モルは洗濯機の修理ができる。自分で修理する人初めて見た。そして初めて洗濯機の中身を見た。