路上でジャンダルムリGendarmerieという国家憲兵隊の人に呼び止められた。
ここまで旅したヨーロッパ圏及びトルコ、その色々な国でこの国家憲兵隊の人たちを見かけてきたけれど、いずれの国でも警察官は併存していて、この国家憲兵隊との役割の違いははっきりよくわからない。どちらも日本の警察官のような働きをしているように見える。
彼らからどこで宿泊するのか尋ねられたので予定地の村の名前を伝えると「我々のオフィスがあるから安全のためにその近くでキャンプをしなさい」言ってきた。「お、公職の方にオフィシャルに野宿が許されるなら安心だ」と思ってそれに応じ、オフィスを訪問。
パスポートを見せてテントを張れるスペースを教えてもらった。すぐそこは大西洋。海風が結構強かったし、人通り多めのメインロードからすぐ近くだったのでなんだか落ち着かなかった。けれど現地のジャンダルムリ氏が「安全」とおっしゃるのであれば安全なのだろう。
(結局、特に問題もなく安全に野宿ができた)
寝る時間まではまだあるので作業と食糧調達。一昨日がほぼ100km。昨日が150km、今日は114km。流石にガス欠だ。普段は買わなかった炭酸ジュースとホブズを多めに買うためにマーケットへ。
そこは英語が堪能でフレンドリーなハムダHamdaという青年が店主だった。ハムダは大学生の頃に日本語を学んだことがあるらしく、のっけから「初めまして、私の名前はハムダです」と自己紹介してくれた。
「子供と触れ合うと良いバイブスをもらえるんだ」と友人の息子をしばし預かり中のハムダ。
彼の店では買い物をしただけだったのだけど、キラキラした目でよく笑うこの好漢の存在が印象に残っている。
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作業のために立ち寄ったカフェはお世辞にも素敵とは言えない対応のおじさんが店主だった。表情が暗い、こちらを見ているその視線に余所者に対する敵意のようなものを感じた。
ペットボトルに水道水を汲んでもらったけれど、その味が錆び臭すぎて明らかに飲めないものだった。これまで出会ってきた人たちなら「ここでは飲めないよ」と言ってくれるはずだけれど、この方は何も言ってくれなかった(後からハムダに確認するとやっぱりこの村の水道水は「ダメ」とのことだった)。
そんなカフェで作業をしていたらよれよれのスーツを着た見たところ60代くらいのおじさんが入ってきてコーヒーをテイクアウト、ぼくを見つけて興味を持ったらしく話しかけてきた。
かすれた声で聞き取りづらかったけれど、英語が少し、フランス語メインなので会話はぎりぎりできる。おじさんは名前をアフメッドAhmedさんといった。
アフメッドさんは自分の住んでいる村がこの先にあり、そこに住んでいるから到着したら教えてくれと電話番号を教えてくれた。ぼくは電話番号を持っていないので、彼の家に通じるキーワードと彼のポートレートを撮影し、村の人に尋ねることにした。
もちろん会いに行ったところでどうなるかは全くわからないし、その前に会えるかどうかすらわからないけれど、これもまた一つのご縁の芽であり、その可能性にワクワクした。
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ここのところ毎晩、誰かしら良い人のお世話になってきたのだけれど今晩はそういうことは一切なし。以前の自分だったらそこに寂しい印象を持っていたけれど、今日の自分は面白かった出来事、ハムダやアフメッドさんとの出会いにスポットライトが当たる。
他人に理解してもらえるような分かりやすい充実感や魅力的な時間がなくても良い(あってもいい)。どんな時でも、目の前に現れる景色の中から自分の喜びや幸せを見出せる。それで良いじゃないか。今晩は自分にフィットするサイズ感でそのことが腑に落ちたような感じがした。とても心地よかった。
<道中の写真>
「ダカールDAKAR」はセネガルの首都。「ヌアクショットNOUAKCHOTT」はモーリタニアの首都。どちらも海岸沿いに位置していて、この道をまっすぐ進むだけで到着できる。
モロッコ国外の都市までの距離も表示されている。次の国、モーリタニアが近づいてきているのを感じる。
砂漠地帯に突入。前方に大きな砂煙が舞っている。
実際入ってみるとそこまでではないけれどじんわりと砂に塗れていく。
地味にキツかったのは大型車両が近くを走り抜けていく時。
風が起こる仕組みに詳しくないけれど、すれ違う時は向かい風の突風。追い越される時は追い風の突風に巻き込まれ、自転車がぐらぐら揺れる。そしてどちらも顔に勢いよくぶつかってくる砂つぶのおまけ付き。
ドライバーさんにマイルドな運転をお願いしたいところだけれど、モロッコ国民の暮らしがかかっている物流を遅めるわけにもいかないのだろう。
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海沿いの村を通過。モニュメントの魚の顔がなんだか夢に出てきそうである。
羊飼い
今日の村、到着。今日も走った走ったー!