HIRO EATS THE EARTH

地球まるごといただきます

夜な夜な農家さん宅へ(Imi N Ouassif→Zagora زاڭورة)

空の色が妖し美しい

と、見惚れている場合ではない。

今日は寝場所探しの段取りを完全に間違えた。近くに町のない場所で真っ暗になってしまった。サクサク進めると思っていた平坦な道路の向こうから吹いて来る強風がこれだけ障壁にさるとは思いもしなかった。

作業はおろか、寝る場所の確保も出来るかどうか怪しい。まあそこらの地面でキャンプができないことはないのだけど、風が強いし砂利がたくさん落ちているし、快適じゃなさそうだからやっぱり誰かに頼りたいというのが正直なところ。繋がりある人が近くにいる安心感を大事に思っているんだなぁと実感する。

こうなったら何がなんでも人を見つけて頼るしかない。マップで確認をすると、今いるメインロードから外れたところに、村らしきものが確認できた。「らしき」と言ったのは、いつもは必ずマップ上に表示される名前が出て来ず、ただ入り組んだ道だけが表示されたからである。

近くを通ったバイクに乗っているターバンを巻いたおじさんに寝場所を探していることを伝えるがアラビア語を読めないアマズィアさんだった。それでも状況とぼくのなりから察してくれて、ジェスチャーを交えたアマズィアの言葉で何かを言いながら村の方角を指した。やはりそこに何かあるのは間違いないという確信をここで得た。よし、行ってみよう。

真っ暗闇の中をヘッドライトで照らしながら進んでいった。地面が凸凹だし半端じゃない大きさの岩も時々あるので自転車に乗って進むと振動で壊れるのが心配になる。手押しでゆっくり進んだ。

時折すれ違ったり追い越していく車やバイクのドライバーはぼくの姿を見てぎょっとしたんじゃないかと思う。照らされるライトで暗がりの中からにゅっと現れる謎のチャリダー

昨晩、レドゥアンから聴いた「アマズィア(ベルベル人)は自分から頼りに行けばすぐに助けてくれるよ」という言葉が頼りだった。ここまできたらカフェなんて言ってないで民家でもなんでも頼ろう。

一件の土壁のお宅を発見した。道路を走っているときによく目にした典型的なアマズィアのお宅。暗くなってから民家に突然現れるなんてめちゃくちゃ怖いだろうから本当はやりたくない。が、やむを得ん、行く。

家の敷地の中に入っていく。家の前は野菜を栽培していると思しきファームが広がっている。農家さんのようだ。家の中に入るドアが見える。その前に車が停まっていて、その中に人影が見えた。すかさず「サラーム・アレイクム」とソフトで弱そうな声質を意識しながら発声し、片手をゆっくり振りながら近づいた。相手から危険視されないための必死の気配りなのだが実際効果があるのかは分からない。

男性は思ったよりも平熱で対応してくれたので、僕は翻訳文が全面に映し出されたスマホを差し出した。男性はそのアラビア文字を少し眺めたが、どうやら読めないようだった。男性は家の中から息子と思しき青年を呼び出して彼にスマホを渡す、青年は読んで男性に何か言うと、完全に要件を理解したらしく、なんと、家の中に招き入れてくれた。ぼくは「わあぁぁぁ〜〜、ありがとうございます」と何度も日本語で言いながらペコペコ頭を下げた。

ドアをくぐるとすぐそこが居間になっていて、広めの部屋の床の半分くらいに敷物が敷いてあり、壁際にクッションがいくつか置いてあった。男性は既に定位置と思しき場所に腰を降ろしていて、「ここに座りなさい」と隣に招かれた。彼はその定位置からすぐ隣にあるガスコンロにポットを乗せてお茶を沸かしてくれた。

彼の名前はモハメッドさん。

このお宅ではモハメッドさんと、奥さんと、二人の息子、一人の娘、一人のお嫁さん、そして3歳のお孫さん、つまり息子夫婦の子供、の7人が一緒に暮らしていた。

最初にモハメッドさんに翻訳を読んであげた青年は若い方の息子でアブドと言った。アブドがそのまま僕の翻訳文を家族に伝える役目になってくれた。3歳のお孫さんが好奇心のままぼくの方に走りよって来る。ハイタッチをしようとするが少年はただ怪訝な眼差しを私に向けるのであった。

3人のヒジャブを纏った女性たちは男性陣から5mくらい離れたところに並んで腰を降ろしていて終始そこが定位置だったのが印象的だった。若い女の子たちは英語を解するようで僕の意志をアブドが汲み取るのに苦戦しているとクスクス笑いながら小声で助け舟を出した。やっぱりイスラーム文化の中では女性は非常に控えめになる。客の対応をするのは基本的に男性の仕事ということなのだろう(男性旅行者の体験談なので女性だったらまた違うかもしれない)。

彼女らは夕飯の用意をしてくれていたようで、小さなテーブルと、布に包まれた何かが乗ったお皿を持ってきてくれた。

布を開けると

ペースト入りのホブズだった。初めていただくものだ。名前を尋ねるとホブズ・シェヘマHobz Shehemaという名前だった。潰したトマトとピリ辛スパイスがほんのり効いている。美味〜い。まるまる一枚だと結構なボリューム。夜な夜な不安な気持ちで歩いていた分とても染み込む。

そしてなんと、これが終わりではなく、今度はみんなで食べる夕飯にガミラとホブズ(パン)を持ってきていただいた。

「みんなで食べる」と言っても女性陣の定位置はそのまま5mほど離れた位置。テーブルは男性陣と女性陣で二つ。分かれて食べた。

ガミラは美味しい!さっきまで暗闇の中を歩いていたのが、一家の輪に入れさせていただいている。地獄から天国のような変化。

しかしまあ、今回は本当に突然の訪問になった上に誰ともほとんど言葉が通じず、写真が撮りにくい撮りにくい。みんなで集合写真を撮りたいとアブドに伝えてもらったが、モハメッドさんからは「La(No)」と拒否された。アマズィアは写真を嫌う人が多いと感じる。

夜な夜な突然訪問して助けていただき「申し訳ありません」という気持ちばかり湧いて来て、最初に座らせていただいた位置から全然動けない。モハメッドさんが入れてくれるお茶を飲みながらそれらの気持ちを通過させてただぼーっとするように努めた。

自分はどこにテントを張らせてもらえるのだろう、と思っていたら、女性陣が毛布を持ってきてくれて、今いる位置で眠らせてもらえるようだった。モハメッドさんも定位置で眠った。まさかお宅の中で眠らせていただけるとは、いやはや本当に感謝感謝だ。

早朝6時ごろ、モハメッドさんが起き出してお祈りを始めた。外は8時近くならないと明るくならないのでまだ真っ暗。彼が小声でお祈りの言葉をぶつぶつ呟き、立ったり座ったりする音を寝たふりをしながら聞いていた。お祈りが終わるとモハメッドさんは再び眠ったようだ。

明るくなってきた頃に起きる。早速モハメッドさんのお茶、そして朝食をいただいた。パスタ。嬉しい!

味付けは塩とオリーブオイル。シンプルながらモリモリお腹に溜まるので嬉しい。黙々と食べてまたモハメッドさんのお茶を飲んだ。

それから周りの景色を見るために外に出た。やっぱり農家さんだ。これはなんの作物だろう。

眺めていると、兄弟の兄、イスマイルが家の周りの農場を案内してくれた。

(ちなみにこの時全てのカメラを家の中に置き忘れてじい、何も撮れていない)

デリジャかアマズィアか分からないが、知らない単語で色々と教えてくれるイスマイルに対してなんとか相槌を打ってついていく。

人参やジャガイモ。人参を生で齧らせてもらったらすごく甘くてびっくりした。

そしてヘナ。初めて植物を見た。。

それからソーラーパネルや地下から水を汲み上げる機械ポンプに水をためておく大きなプールを見せてもらい、この地方の農法をほんのりと垣間見させてもらった。都会育ちで農業関連の知識0の自分は「へえ〜こんな砂漠でも地下には水があってそれで農業できるのね」と、素人の感想を持った。

一通り見回って家に戻るとモハメッドさんが「来い」と合図をしている。家の中に入ってまた定位置に座るとまたホブズ・シェヘマHobz Shehemaを用意していただいていた。何度いただいても嬉しい、、

それからモハメッドさんが表で働くのと同時に出発した。

黙々とした時間だったけれど、窮地を助けていただいた上に、アマズィア流のおもてなしを体験させていただけてすごく貴重だったと感じた。「アマズィアは助けを求めれば助けてくれる」というレドゥアンの言葉はまさにその通りだった。突然の訪問、すみません。そしてありがとうございます。

<写真>

ラクダ注意だよ。