みんながもう寝始めた時に夜のサハラを少しだけ歩いた。
ここまでずっと一本砂漠に伸びるコンクリートの道路を走ってきているけれど、この砂漠は全く走ることができない。タイヤが砂に取られて前に進みようもない。圧倒的な自然の前では自転車もまた不自由だ。本当にどこへでも行くならやっぱり歩かなければならないと思う。
月がほぼ満月で明るい。風は吹いているけど強くはなくて心地いい。ジャケット一枚とスノボ用パンツを来ていても少し寒さを感じる。ここを一人でただ歩いた。
心地良かった。旅行者的には何もない景色で面白味はないのだけど、この何もなさが良い。
モロッコでの旅の途中から「人生をうまくやることができなくても良い」と、ずっと心の中で思ってきたことを発信で人前でも言うようになった。それは自分の周りから頼れる仲間や理解者や友人が人っ子一人いなくなっても良いということだ。でもこれまで自分が生きながらえることができた理由のほぼ100%は心ある人たちのおかげであるという感は根強くある。それ故一人になっていことへの怖さはやっぱりある。
でも、こうして実際身一つになって歩いてみると、それもまた心地良いと感じる。たとえ本当に何も上手くなんか行かなくなってしまって一人寂しく朽ち果てていくことになろうとも、それがこの心地よさの中へ身を投じるようなものであるならそれもまた良いと思えてくる。この静かさには誰かと笑い合っている時以上のリアルさがあって、そこに安心感が感じられて、ぼくはそれを気に入った。短いながらも印象深いひとときだった。
あまりはっきりとは写っていないけれど動画も撮ってみた。
・・・
このチームはスペインのイヴァンとぼく意外みんな早起きで朝8時という冬のサハラではまだ暗い時分に走り出す。ぼくとイヴァンは1時間遅れの9時から走り出すことにした。イヴァンは西語はもちろん英語も仏語も話せるのでコミュニケーションに支障がなく、ここ数日間で生活スタイルやリズムがチーム内で最もぼくと合うので一緒にいることが自然と多くなった。
ホブズにミルクをつけて朝食を頬張るイヴァン。現地人さながらにターバンを巻いている。
出発。
静かな中で日が登ってくるサハラの道を走っていく。
イヴァンは途中「旅の中で一番クレイジーだったことは何?」と尋ねてくるので「そういうお題苦手なんだよなあ」、と思いつつも、ギリシャの警察官に暴行を加えられた話、アルバニアで自転車を盗られて返ってきた話、雪が高く積もったブルガリアの夜の山奥でめちゃくちゃ怖い思いをした話、を伝えると面白がってくれた。
白い砂漠
風が吹くとこんなふうに煙のような砂埃が地面を流れる。
この日辿り着いたカフェ。中の人と話をつけてお祈り部屋を寝場所に使わせていただけることになった。
カフェの中にいた松葉杖をついたお客さんは僕らに話しかけてきて、スペイン語を話せるイヴァンがあれやこれや話しているうちに、彼からご馳走してもらえることになった。
魚のタジン
写真の左から二番目がその男性。
クリスタの日記。
フランスのトランプ。
大富豪に興じました。
例の男性はお店の人にマットレスを引いてもらってお祈り。
のんびり時間は過ぎていく。イヴァンが話を聴いて通訳してくれたところ、例の男性は西サハラ地域での戦争にて片足を撃たれてから松葉杖生活になったという話だった。
お茶は炭火で沸かしています。
今日の日暮れ。
夜になるとまた松葉杖の男性が誘ってくれてラクダのお肉を囲ませていただけることになった。
肝臓の部分のような歯応えと脂身が美味しく濃厚だった。
就寝前にクリスタは髪をセット。朝が早いので身支度を済ませてから眠る。
この日の宿泊部屋はお祈り部屋にて。