奇跡的な出会いの翌日。ウシュアイアの町中を歩いてきた記録です。何でもない町中スナップが並んでいます。
この間、旅中ずっとでもありますが、とにかくずっと不安でした。歩いているだけで銃を突きつけられるのかもしれない。犬に噛まれて何かの病気になるかもしれない。スペイン語は話せないから基本、人と交流はできない。南極に行けることになったけれど果たして自分は恩返しになるようなことが果たせるのか。無茶な旅をしている自分は他人の目にどう映っているのだろう。シャッターを切って歩いて持ち帰ったウシュアイアの景色をここに並べておきます。2017.12.9-10
=====
バーでの夜ふかしがたたって起きた時には13:00を過ぎていた。
「Mornin'...」
もぞもぞと起き上がってトイレに行こうとすると夢と現の間から漏れ出たような声。マクシーは自分のベッド上で倒れ込んでいた。もともと昼過ぎまで寝ているらしい。
写真は撮っていないけれどトイレはとてもボロボロだった。ユニット式。用を足した後はそばに置いてあった桶に水道から水を汲んでそのままトイレに流す。
昨日の劇的な出会いのおかげで無事に一泊過ごすことができた。さあ、今日はどうしよう。ぼーっとする頭で考える。
ウシュアイアという町の存在を知ったのはあの、初めて南極に行くと宣言して具体的な行き方を調べるために地球の歩き方ガイドを取り寄せた時だった。
はじめはこの緯度だとどのくらい寒いのだろうと怖がって防寒対策ばかり意識していたけれど、本の中にあったウシュアイアの写真を見てから、きっと自分の好きな雰囲気の町なんだろうなと想像した。
実際到着してから眺めて回ったほんの少しの景色だけでもどこか心惹かれる。
が、泊まる場所がないことや南極ツアーチケットのいろいろで、ゆっくり味わうことができていなかった。
よし、今日は朝からいろいろと探検してみよう。
二度寝中のマクシーに出かけてくることを告げ、マットを壁に立てかけ、バックパックに交換レンズと防寒用の上着を詰める。それ以外の大半の荷物を彼の小さな部屋の隅に置かせていただく。カメラを首からぶら下げる。
マクシーの飼い犬はもう自分を見つけてもあまり吠えなくなっていた。あまり光の差さない玄関のドアを開けると眩しかった。外は気持ちよく晴れていた。
ウシュアイアの天気はとても激しく移ろう。
アイフォンの天気予報ではずらりと雨予報だと身構えればいきなり晴天。予報が外れたのかと油断しているといつの間にか空は雲に覆われ、顔に水滴が落ち始める。風もまた同様、吹いたり止んだり。
後にそんな気象事情を「一日の中に四季がある」と表現されているのを聴いてすんなり納得した。
今日も油断はならないけれど、できるだけ長く続いてほしいこの天気。
地図はできるだけ見ないで歩いてみたい。
まずはこの町でよく視界に入ってくる雪のかかった山の上に行ってみることに。地図を確認すると道はつながっているようだった。
家の色や形にカメラを向ける。住人にとっては何でもないであろう日常の造形物が地球の裏からやって来た旅人の目には珍しく映る。
犬にたくさん吠えられる。声がでかい、荒い、太い。
元気なのはいいけれど、問題はいつ何処から吠えられるかわからないことだ。通りがかりの間近の柵に隠れていて見えなかった犬が「よそ者が来た!」という感じで飛びついて吠えてくる。
道端で居眠りしている犬もこちらが近づくなりこちらを凝視、さらに近付くと起き上がってやっぱり吠える。やっぱり声がでかい。身体もそうだけど声とか荒々しさも含めて、でかい。ちょっと身構える。
海が遠くに見える。観光船も見える。
生活感のある風景はわりと早くになくなって山道になる。数十分歩いて振り返っただけでけっこう町を見下ろせた。
登っていく山道の風景は人里を離れるとこんな感じになってワクワクする。が、ちょっと心配だ。
高度が少し上がる度に後ろを振り返る。
自分以外のだれもこの山道を歩いていない。自分ひとりがこの山を登って町を見下ろしている。自分だけが神秘的な体験に出会ってるような心地にドキドキしまう。
途中、うっかり深い水たまりのような場所があることに気がつかなくて足が深く水没して靴の中に水が入った。
ちょっと怖くなって引き換えすことにした。
何の実だろう。
いったん町まで降りる。が、やっぱり自然の中を歩きたくて先ほどとは違う上り坂を歩くと川を見つけてちょっと嬉しくなる。
川に小さな橋がかかっているところを見ると地元の人でも通る場所なんだろうと安心して先に進む。
森が深くなって上り坂は続く。
ゆるやかなカーブを曲がってまっすぐ伸びる道の先に
黒と茶色の塊が寝そべっているのを発見。
塊はすぐにこちらの気配をキャッチして立ち上がる。
野犬、いや、番犬か。けたたましく吠えながらこちらに突進してきた。
すぐに逃げた。
これ以上は、やめておこう。
山道はもう良いかな。住宅街に足を進める。
行く手に犬が一匹。またたくさん吠えられるのかと身構えていると何も言わずに横を歩きはじめた。
この辺の人からよくエサでももらっているのかな。あいにくだったね。自分も似たような立場だよ。途中見かけた犬とフェンス越しになにやら話す。犬の鳴き声もスペイン語なのだろうか。
傾斜に住宅が並ぶので坂の登り降りのための階段があったりする。
遠くからおじいちゃんが歩いてくるのが見える。
中国人っぽいなあーと思ってたら声をかけられる。
「あんた日本人?」
!?!?!?!?!?
あ、はい!あれ、こちらにお住まいの人?
「そうだよ!うちはお店やってるよ!日本のものいろいろあるよ!お酒あるよ!本もあるよ!」
ええええええ!!!!!
お店の場所しりたいです!!!
口頭で案内していただくが、彼と自分でこの町についての情報差がありすぎるせいだろう、全然よく分からない。
今何されてるんですか?
「歩いてるの!トレーニング!」
すごいですねー!
ずいぶんしっかりした足取りだ。
この町に住む日本人がいる。
野良人間としてはとても心強い。
また、会えるだろうか。
再び歩き出す。
なかなか素敵に撮れないなあ。
何を撮ることも求められていない。何を撮っても良い。
そんな中で撮る写真は難しく感じた。
山から降りて次は海に向かう。
あれが南極に行くための船。
この町に住むならちょっと散歩しに行くだけで南極をどこか意識できる。実際にツアーに参加するしないに関わらず日常の中に南極がある気がした。最果ての町。
お寿司屋さんがある。ウシュアイアの寿司屋だから「ウスシ」なのか。
少ししか詰め込まなかったけれど
それでもバックパックはだんだん
重く感じるようになってくる。
立ち止まって荷を降ろして
肩が恐ろしく凝ったような痛みを訴えてくる。肩を揉んで、また背負って
ゆっくり進む。
「しかし、どうやってこれから生きていこうかな。。」
町を味わい楽しむために歩いたはずだったけれどやっぱり心配事が尽きなかった。「自分は悪い意味でとんでもないことをしてしまったんじゃないか?」と、何度も頭に浮かんできた。
時々Wi-Fiの飛んでいる建物の近くでネットが繋がり、メッセージがとどいた。振り込んでくださった人がいた。「お金の心配はしなくていい」とメッセージをくださった人もいた。とても心救われたけれどもやっぱり心配なものは心配だった。
歩いていればマクシーのような出会いが転がってるんじゃないかなという思いもあった。けれど実際そんなこと、滅多に起こるものではない。
知っている人は人っ子ひとりいない
地球の裏側の小さな町で
ひたすら一人の時間が続く。
ひたすら歩く。
そうやって歩いていると
日本にいるたくさんのつながりすら
ただの夢で
現実はたった一人だったじゃないか
という感覚がわいてくる。
正直なところ、この時の自分は残り日数と手持ちの金額を頭の中で並べて絶望的に旅費が足りないことや、そんな「みっともない自分」がどんなことを周りから言われ思われるのだろうと不安がる気持ちがとても強くかった。それでも目に飛び込んでくる景色は新鮮で写真を撮る。
怖いんだけどどこか楽しんでる。不思議な感覚だった。
この辺りから初日に通った道になる。
出会いらしい出会いは何もなかった。ずっとこれからのことが漠然と不安だったことを覚えている。撮れそうなところを撮って、雨に降られて、犬に吠えられて。旅に対してとても受け身だったように思う。
夕方の17時になっていた。マクシーのところに行きたくなる。今日もあそこでパフォーマンスをしているらしい。彼の友人も来るとメッセンジャーで教えてくれていたので歩いて向かった。
=====
次
目次