こんな自分がここまで護られていることが信じられない。ただひたすらおそれ多い。
空港でずーっとあぐらをかいてスマホを見て過ごして、ときおり顔をあげて異国の人々の様子を眺める。そんな自分をよく覚えています。じっとしている、けれどもいろんなことが起こったように感じられる24時間でした。応援されることから受け取るプレッシャーやツアーチケットが手に入るかわからない緊迫感、そして護られているような感覚。手続きの話や自分の心のコアな部分の話などで文字が多すぎになる回ですが、これもまた自分の旅に欠かせない要素として残しておきたいと思います。大きな国の大きな空港の中での小さな人間の小さな出来事たちの記録。アルゼンチン入国です。
着陸は無事に成功。地球を半周する飛行機旅はやっぱりあっという間だった。席を立ちたくない。が、行かなければならない。
客室通路にズラリと乗客が並ぶ。窓側席から出ようとすれば自分よりも後ろの人たちが出るのを待っていてくれるが、忘れ物をちゃんと確認するために自分の席に留まってゆっくり荷物の支度をする。
お尻の下、ブランケットの下、座席の下、キャビンの奥、もう一回ぐるっと確認。またもう一回確認。やっぱり心配なってもう一回確認。よし。大丈夫。多分。きっと。
いざ出ようとすると機内の乗客は自分一人になっていた。普通に入念に忘れ物をチェックしているだけのつもりだったけれど、最終的にはアテンダントさんから「大丈夫ですか?」と声をかけられるほど遅いようだった。
飛行機を出た瞬間体を包んでくるアルゼンチンの空気。うまくは言えないけれどちょっと日本とは違う匂い。
晴天。そして、暑い。冬の日本に対してこっちは夏だ。南半球は本当に季節が逆だった。
ダウンを腕にかけて持つ。フリースは腰に巻いた。ロビーまでの通路を歩く。
通路の大きな窓の向こうの乗ってきた飛行機を振り返って見る、ほぼ丸一日お世話になったアメリカンエアライン。ずっと乗っていられたら良かったのに。
アルゼンチン、エセイサ国際空港。首都ブエノスアイレスにあるアルゼンチンの玄関口のような空港。
ここから次は南極に一番近い最南端の町、ウシュアイアにむかう飛行機に乗るのだけれど、その便の出発は24時間後だった。
ブエノスアイレス到着時間
ブエノスアイレス出発時間
ウシュアイア到着時間
(ウシュアイアまではトレレウという都市を経由する。)
日本にいるときにネットであまり詳しくチェックせず、ブエノスアイレス〜ウシュアイアの便を安く買った結果、ずいぶん非効率な旅程になった。
よって、今日はどこかで一晩明かす必要がある。というか、心の中ではもうこの空港に泊まろうと決意していた。
日本やダラスで何度もその設備をリサーチして、コンセントも無料で横になって眠れるスペースもあるらしいことは分かっていた。その情報が本当なら自分のような崖っぷちバックパッカーには「お家」と呼んでも良いくらいの出来過ぎた環境だ。
まずはWi-Fiがあるか確認。パスワードのいらないフリーWi-Fiがある。たぶんこれだ。日本ではセキュリティが危ないだの何だのという評判を気にして利用を避けていたフリーWi-Fiだけれど、ここではそんな細かいこと考えていられない。
一瞬だけ繋がるが、すぐに繋がらないと表示される。が、もう一度タップすると繋がった。諦めずに求めればWi-Fiだって応じてくれる。つながった瞬間、端末が振動。フェイスブックやメッセンジャー、ラインにたくさんのメッセージやお知らせが入った。
空港内の案内看板やポスターにはスペイン語が並ぶ。空港なので英語と中国語も併記されていたりもした。ここから先はスペイン語に囲まれれた生活になる。
『baño』
(『バニョ』だな。)
その文字の横には日本でも馴染みの男女のトイレマーク。
(トイレはバニョか。)
響きまでちょっと面白かったからだろうか、一瞬でインプットできた。たしか「bañar」で「シャワーを浴びる」とかだからその変形かも。やっぱり英語でトイレを「bathroom」と言う感じに近いのかな。
もう10年も前になる。大学の時に第二外国語の授業を選択する必要があった。当時選べた6カ国語くらいの中から「母語とする人口が多いから」という理由でスペイン語を選択していた。少しの期間しか触れていなかったけれど、男性名詞と女性名詞があることや、動詞が6種類に活用変形することや、わりと英語に似ていて意味を想像しやすい単語があることや、基本ローマ字読みだが一部英語と異なる読み方のアルファベットがあることくらいは把握していた。
ほんの少しの知識。けれど全くの無知である場合に比べてずいぶん状況が違うだろう。眼前に広がる様々なスペイン語を目に流し込んではあれこれ思い巡らせた。
イミグレーションではアルゼンチン住まいの人と旅行者で列が分けられ、旅行者の列はずらりと長く並んでいる。行列の後ろに立ってバックパックを足元に置いた。
待ち時間の間にたくさん入ったメッセージを確認する。Facebookを開くとお知らせマークの右上の赤タグにかつて無いほどの数が表示される。投稿に追加でいいねやコメントがたくさん寄せられている。嬉しいコメントがいっぱいだ。
お金を口座に振り込んだことを知らせるメッセージをいただく。なんとお礼を伝えたら良いか分からずに感謝よりも先に困惑が来てしまう。。
以前安めの金額で撮影を承った方からその時のお礼も含めた応援としてお振込みいただりもした。漫画みたいな展開だ。。
「え、あなたが!?」と思わず声を漏らしてしまうくらい自分の発信になんの反応も示してこなかった人の名前が入金明細にあったりもした。目の前の事実が信じられない。。
全く出会ったこともない人がFacebook上で偶然自分の投稿を発見し「自分も以前、南極に行って素敵な体験をしたから」という理由で振込と、オススメのチケット購入窓口まで教えてくれた。なんじゃこのミラクル。そしてこの突如舞い降りた女神様。。
具体的な金銭でないサポートもたくさんいただく。
純粋にエールのメッセージをくれる人はたくさんいたし
英語で出していた自己紹介ブログ記事を見て「現地ではきっとほとんど通じないから」とスペイン語の翻訳をメッセージで送ってきてくれた人もいた
実際には叶わなかったけれど、お金を集めるために自分の勤め先の仲間に声を掛けてくれた人もいたという。
突然「こめおがエクセルの表みたいなの作ってて300万円集まったよ!って報告してる夢見たよ!」と、すごいのかすごくないのか分からない、が、すごい気がする情報をくれる人もいた。
違った種類の衝撃もやってきた。
Facebookでつながってはいたけれど、学生時代以来会ってなかった人達から突然顔写真と一緒に応援メッセージが送られたり、やはり学生時代にお世話になったけれどろくに挨拶せずに自分から離れた人からFacebookでの友達申請をいただいたりもした。
自分は写真を撮る仕事を始める以前の付き合いはゼロではないけれど基本的にはほとんど失ってきてしまっている。自分の大切なエッセンスがつまってる時期な気がするだけに、そこに寂しさを覚えているところがあったので、こうしてそこに再び温度が生まれることがとても嬉しかった。
小さなスマホを通して、自分の器にはとても大きなスケールの影響が広がっているのを感じた。「南極に行く」という火が大きく燃え上がってその周りに人が集まってくる。まるで祭りのようなイメージが浮かぶ。
自分が何も表現しないで過ごしていたら、何も助けを求めずに過ごしていたら、自分を純粋に応援したがってくれている人の存在を確かめることができず、何も反応してこない人に対して「この人は自分のことを嫌っているんだろうな」と見当違いの誤解を抱き、古い知り合いとは永遠にすれ違ったままになり、お世話になった人とメッセージを交わすこともできなかったかもしれない。
「人に迷惑をかけてはいけない」「しっかりした人間にならなければ生きていけない」高校生の頃のある事件を境にそう自分を戒めて生きるようになった。10年以上も連れ添っている自分の中で無意識にこびりつくくらい染み込んだルール。
けれども今、そのルールに自分なりに逆らい「人のお金をもらって個人的な旅行に行く」という自分の中では横暴とも呼べるほどの奇行に走るほど、周囲から熱気を感じる。面白がる声が、喜ぶ声が聴こえてくる。「写真の仕事を承ります」と宣言している時より、明らかに質量ともに圧倒的な熱気。手にした小さな端末から強烈に伝わってきた。
自分にとってありがたいはずの熱気。けれども、それを受けた自分の心中の大半は恐怖が占有していた。今だけじゃない。この南極冒険を意識してきた1年近くの期間、何が一番怖かったかって、それは間違いなく人から施しをいただくことだった。「もはや拷問のようだ」といつももらしていた。その「拷問」のような施しがこの土壇場でピークに達している。
眠る場所がないこと、食べ物がないこと、お金がないこと、死ぬこと、etc、、、自分が恐れるものはいろいろある。
けれどもその中でも「これが最も本質的だろう」と思うのは愛されることへの恐怖だと思う。誉められることも祝われることも施されることも「自分はそれに値するような人間じゃない」とか「どう恩を返せばいいだろうか」とか考えて本質的な部分で目を逸らそうとしてきた。差し出される愛を避けようとしてきた。
立っていられないくらいの濁流に飲まれるような心地をなんとかするため、とりあえずはメッセージを見ないようにした。
並んだ列が進んでようやく係官の元へ。アルゼンチン滞在中の宿泊先を尋ねられる。内心大丈夫かなと思いながら「ホステルに泊まる予定です」と適当に答えたが、無事にイミグレーションを通してもらえた。
次は預けた三脚を引き取りに行く。無事だろうか。荷物引き渡し所。大きなベルトコンベアがいくつも並ぶ。看板を頼りに自分の便の場所に向かうと何もなかった。他の乗客たちもいない。その荷物らしきものもない。ガラガラだ。「預けた荷物がなくなることも覚悟してください」ネットで見た旅行経験者の書き込みが脳裏によぎる。
誰かに聞いてみなきゃ。なにかのイベントのスタッフがつけるゼッケン、ビブスみたいなのを着ている空港の男性職員さん。少し年配のように見える。
「そろそろ声をかけようかな」ともたもたしてるうちに次々と他の便の乗客が話しかけてしまう。いかん。またしても腰が引けている。乗客との話が終わった瞬間「行けっ!」と気合を入れた。
英語は通じた。話ができるかわからないプレッシャーやそもそも三脚が行方不明になった不安感でだいぶ弱々しい人間に見えたかもしれない。彼は荷物引き取り所の総合受付のようなカウンターを教えてくれた。カウンターの人に自分の乗ってきた便を伝えると屈んでカウンターの下に置いてあったプチプチとセロテープでミイラ状態になっていたあの三脚を取り出した。ああ、よかった。1日ぶりの再会だ。
どうやら自分は同じ便の他の乗客よりもだいぶ遅くここに来たようだ。三脚はベルトコンベアの上を何周も回ったのかもしれない。ミイラ梱包のおかげで三脚自体も無傷。「壊れてしまうかもしれないですよ」という成田空港で職員の方々からいただいた懸念は杞憂に終わった。
これで無事、日本の真裏、南米の地、アルゼンチンに無事渡航完了。バックパックを背負い、ダウンを腕にかけつつ、三脚を裸で持つ。丸1日ご無沙汰していたフル装備の荷物がとても重く感じる。この装備でこの地を生き抜くんだ。まずはとりあえず休むため、例の無料でくつろげるスペースを探そう。
その場所はすぐに見つかった。ロビーの2階に
くつろげる場所が本当にあった。まずはひと安心。続いて電力。コンセントを探す。これさえあればもう家同然だ。
キョロキョロとあたりを見回しながら通路を歩いていると。旅行者のような人が声をかけてきて、「ここのコンセント使えるよ」という風の合図を送ってくれた。
写真だと見づらいけれど、この通路の両端にのびる線に大量のコンセントがあった。形状はネットで調べたとおり、弱そうな顔のプラグ。CタイプとBFタイプの兼用だ。(↓は同じ形状のものをネットから拾ってきた)
持ってきたこの穴に対応できるプラグを取り出す。これがCタイプ対応。
青い方のコンセントは外すとBFタイプにもなる。
変換プラグの後ろ側にスマホの充電コンセントを差し込む。そしていざコンセントへ。
内心で冷や汗がにじむような心地になるのを感じる。
もう10年も昔、インドにボランティアに行ったとき。当時使っていたauのガラケー充電器をコンセントに差し込んだ。すると一瞬だけバチッと光を出して、以降二度と充電できなくなったことがあった。多分、変圧器を使わなかったせいだと思う。今回も変圧器がない。ここで同じようなことが起これば充電ができなくなり、スマホが使えなくなって、、いったいどうなるのだろう。。
じわりと恐怖する。この地に住まう人なら何も考えずに補給しているであろう電力を、わたしは今、脅威に感じている。
ええぇぇぇぇぇい!!いざ!!!!
グサッ!
ピッ。(無事充電マークが表示される)
おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!
かつてこれほど充電できることに歓喜したことがあっただろうか。合掌。
今時は充電器の方が異なる電圧に対応できる設計になっているらしい。大したことあるのかないのかわからないけれど一人技術の進歩に感動する。きっと自分の想像を遥かに絶するほど優秀な方々が今日も新しい便利すぎる何かを作ってくれていて未来のちっぽけな自分はまたしてもその恩恵にあやかるのかもしれない。合掌。
なにはともあれこの場所に問題なく滞在できそうだ。もうこれなら立派な「お家」だ。とりあえず落ち着こう。くつろぎスペースに場所をとる。
まずは無事に到着できたことを発信したくなった。ここは生放送でいこう。
アルゼンチン、エセイサ国際空港より
Tajima Hirohisaさんの投稿 2017年12月7日木曜日
(↓実際の投稿へのリンク)
いいねの数や視聴数がまたたく間に上がっていく。おお〜、みんなすげえ見てくれてんだな〜!
日本はこの時間は夜だろうから、外が明るいブエノスアイレスを見せて「時差マジック」を演出できることが嬉しい。謎にコンセントを紹介したりするほど電力が使えることが嬉しかった。ライブ配信をやったは良いものの、場が全然繋げないのですぐに終えた。とりあえず無事が伝わればいいか。やっぱり注目には慣れない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
24時間も時間が余っていればブエノスアイレスの観光もできたかもしれないけれど、やっぱり全てを完全に南極に集中させたかった。金銭的な意味でも意識的な意味でもとにかくすべてを。南極に行けさえすればそれでいい。今日はこの「お家」で1日を過ごそう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
南極ツアーチケットの入手も大事だったけれど、その前に滞在することになるウシュアイアでの宿泊先もまだ手配していなかった。
ふつうは事前に現地のホステルや安宿を調べておくものなのだろうけれど、もはやこのときの自分はお金を払って宿泊施設を利用するつもりは毛頭なく、現地で泊めてくれる人を探し、出会うつもりでいた。そんな自分のひとつの望みがこれ。
Couch surfing(カウチサーフィン)
きっとあまりにも有名なので今更自分が説明することもないけれど、すごくざっくり言えばバックパッカー向けのコミュニティアプリ。旅先で現地に住まう人にコンタクトをとって泊めてもらうことをお願いしたりできる。日本を出る直前にこんな風に英語でプロフィールを入力した。
このカウチサーフィンのひとつの機能として、自分が旅する地域とその期間を登録すると、その現地に住まうユーザーの目に止まりやすくなるというのがある。きっとその機能のおかげだ。
誰かからメッセージが届いている。
ウシュアイアに住んでいる方だった。プロフィール写真にはラテンな男性の顔が証明写真のように写っている。(相手のプロフィールと写真は消してあります。)
英語でコンタクトをとってくれる上に、何日間の滞在かきいてきてくれた。
うおおぉぉっ!!いきなり泊めてくれる人が!!おおおお〜すごいぞカウチサーフィン!!!
嬉しくなって返事を返す。これが、今どきの旅なのか。。!!「必要なものは自然と手に入る」ということを信じてここまで来たけれどどこか半信半疑だった。こんなふうに旅する中で必要な物が自然と得られたら嬉しいなぁ。
メッセージを返した。かなりがっついている感じが伝わってしまうかもしれないがいまは悠長なことは言ってられない。こちらの状況を詳しく伝えて返事を待った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
色々と調べなければならないこともある。まず、ここまでで未解決の問題が1つあった。
実はこの男、入っていなかった。
海外旅行保険に。
日本にいるうちにいくつかチェックはしていた。けれど、どこも数万円かかってしまう。それが自分にとっては痛手でしかなく、迷い迷って結局何にも加入せずここまで来てしまった。トチ狂っていることなのかもしれないが、この時の自分はそれほど南極に行くことができればそれで良い。ツアーが確定するまでは一銭たりとも無駄にしたくないと思っていた。
が。
どうも、どうもである。南極ツアーを色々と調べてみたところによると、ツアー参加のためには
海外旅行保険加入必須だった。
あれ。
日本を出てから海外旅行保険入れるんだっけ。
あれれ。
入れなかったらアウト?
あれれれ。
ざわ。。ざわ。。
すぐに調べてみる。いくつかの情報発信者のブログに助けられながら行き着いたのがこちらの保険。ネットで申し込んで加入ができるようだ。
料金シミュレータのようなものを使って期間を色々と入力してみる。期間によって値段が変わる。
本来なら50日間全日程をカバーするように保険に入るのだろうが、やはりここは南極のツアー期間に絞って安く済ませようか。とするとやはりまず決めるは南極ツアーの日程だ。行けそうなツアー発見次第保険加入だ。
このときにはもう口座の数字が80万円を超えていた。いつの間にか南極ツアーチケットがすぐに買えるくらいの額に到達している。
はじめは「こんなお金の集め方では達成は無理なんじゃないか」と思っていた。
クラウドファンディングはこれが初めてではない。前回は23万円ほどする望遠レンズを買うために資金提供をお願いして2週間足らずで資金は集まり、お陰様さまでレンズを買うことができた。
当時の自分はその成功の要因は大きく2つあったと分析していた。ひとつはそのレンズを手に入れることが「もっと良い写真を撮れるようになる」「仕事の繁盛に繋がる」という「みんなのため」に繋がることがイメージされやすく共感を得やすかったこと。もうひとつはお金を出してくれた人に「出張撮影をタダで提供する」という、リターンをはじめから真摯に明示していたこと。
しかし今回については、この2つの「要因」から脱することにした。
これはただ、たしまこめおが旅をするだけ。その旅を通してどんな自分になっているのか、という明確なビジョンはない。その旅を自分が体験することによって自分以外の誰かや世の中にどんなメリットを提供できるのか皆目分からない。未来を示せない。
「カメラマンだし、良い写真を撮りにいくんだよね」と当たり前のように想像されたりもしたけれど、正直、そもそも自分で自分を「カメラマン」と認識していないので写真を撮ることを自分に課すつもりはなかった。好きで撮るつもりではいたし、結局撮ったのだけれど。行く前から「良い写真を撮る」ことを目的には入れていなかった。あくまで「その時、撮りたければ撮る」だ。極端な話、カメラが途中で何者かに盗まれたり、どこかに落として壊れたりしても旅の目的は果たすことができる。
お金を出してくれた人に対するリターンについては、正直な気持ちをまず発信した。「正直、なにも頑張らずにラクして南極に行きたい!」本当にただお金をいただくことを第一に求めた。その本音に「さすがにちょっと非現実的だから」と付け加える形で「お金を出してくれた人には出張撮影ができます」と「リターン」を用意した。「リターン」を用意してはいても、その前にこの本音が挟まれていてはせっかく協力したいという気持ちを持ってくれた人からも愛想つかされると予想していた。
「ビジョン」も「リターン」もハッキリと示されていない資金集め。世の中で「クラウドファンディング」と呼ばれているものをひと通り見回し、改めてこの動きのことを自己評価するなら「クラウドファンディングではなく単なるお願い」だった。
そんなものが成功するとは到底思えなかったけれど、それでも実行したのはこの、「単なるお願い」に近づけることに対してのこだわりがあったからだった。そのこだわりについては今の自分にも直結するくらいの大事なことだと思うけれど、もう少し自分の中で整理がついてから発信してみたい。
ともあれ、不可能だと思っていたハードルに届くことが出来た。楽天銀行口座アプリから覗く80万円もの数字に圧倒される。恥ずかしながらこれだけのお金が自分の口座に入ったことはない。貯蓄額自己新記録だ。普通に写真の仕事しているときよりもお金が入っている。
ここまで来たら本当にツアーに参加できるかもしれない。改めてもう一度調べてみよう。先に書いた南極に行ったことのある協力者の方から紹介されたオススメの窓口「クルーズライフ」という会社
実はこのサイトは日本にいる時に既にチェックしたことがあった。日本人向けのツアー代理店なのでサイトがキレイに整っているし、日本語だから見やすい。しかし、こういう日本人向けのツアー会社では。料金が割高になってしまうイメージを持っていた。
それでもこのタイミングで改めて紹介されたのもなにかの縁。今チェックしている現地ツアー会社のものより良いツアーがあるかもしれないから一応チェックだ。
探してみると、12/12〜20の9日間の席が1つ残っているという。9395ドル。ラストミニッツで25%割り引き。電卓で計算。7046.25ドル。あ、、、もしかすると買えるんじゃないか。。。?
会社に直接問い合わせて確認する。送ったのは午前中だから日本では夜遅い。営業時間外だろう。返事はすぐには来ない。
そわそわする。こうしている間にもその席だって埋まってしまうかもしれない。でも、待つしかない。
ふと、昨日のフライトのことも投稿しておこうと思った。相当テンパっていてそれどころではないけれど、こうしてゆっくりできる時間を持てた時には旅のことをできるだけちゃんと記録しておきたい。
22時間くらい空にいました。 空、空、空。 成田からダラスへ。 ダラスからブエノスアイレスへ。 窓の外を時系列順に。 明日も空にいる予定です。
Tajima Hirohisaさんの投稿 2017年12月7日木曜日
この旅はじめての一眼レフカメラの写真を使った投稿。今回のお供のCanon EOS 6Dのカメラ内搭載Wi-Fi機能によっていつでもすぐにスマホに写真を飛ばすことができる。Wi-Fiで写真をスマホに飛ばす技術はもうかなり普及してるけれど、地球の裏側でもちゃんと機能してくれるこのカメラをこの時の自分はとても頼もしく感じた。
ふと思いついて旅の荷物のことをまとめておこうと思い浮かんだ。旅をする前から自分が使う物は誰かからいただいたり買っていただいたりすることは多かったが、今回は旅するにあたって荷物の量を絞った所、ほとんど全てが誰かからいただいたものになっていた。そのことが、このタイミングではとても素敵なことに感じられた。ひとつひとつの荷物に自分に関わった人との縁が宿っている。そのことを奇跡のように感じる。人目につくところに発信として残しておきたくなった。
荷物を取り出してカメラを向ける。写真にしたときに見やすい置き方や角度を軽く探る。撮った写真の色や明るさを軽く直して一枚一枚ブログに貼り付ける。
あの人が使わなくなったもの
あの人がお金の代わりにと応援の気持ちで買ってくれたもの
南極旅のために作ってもらったもの
以前の自分の勤め先でもらっていたもの
南極を意識してから、特に旅に出てからというもの、ツアーに参加できるかどうかが気がかりだったり、実際に生き残れるのか不安だったりでずーっと焦りっぱなしだ。すごく感覚的なことだけれど、そんな気持ちでいて力を貸してくれるひとりひとりの顔がちゃんと見えていないような気がしていた。というか、見ないようにしているような気がした。
焦る気持ちがちゃんとおさまったりはしないけれど、そんな自分でもひとつひとつのものとちゃんと向き合う時間を持つことで、余裕のない心にほんのりとした空間を持ち、そのスペースの中で自分に手を差し伸べてくれた人の存在をほんのりと感じることが出来たような気がした。それは日本の裏側の地で孤独を味わう自分にはとても心温まるひとときだった。
最後にすべての荷物の「集合写真」を撮る。荷物ひとつひとつの向こうにそれを差し出してくれた人がいて、それらが一箇所にまとまるとすごく大きななにかになった。そのなにかに護られているような心地になる。日頃から物を大切にする方ではない。が、この時は生まれてはじめてくらいの勢いで物から無形の恩恵を受け取り、物を大切にしない日頃の自分を恥じた。ブログを公開した。
Tシャツの紹介のために三脚を使って自分の顔も撮っていた。三脚を立てて撮るというのはとても目立つ行為なので周りの目を気にしまくって緊張した。
このあと、本当に空港の警備員に注意されて三脚を小さくたたんだ。
窓の外がすっかり暗くなってきた時、クルーズライフから返事が返ってきた。どこに出しても恥ずかしくないような完璧な言葉遣いのお客様対応。自分の送ったメールの焦った雰囲気と言葉の拙さが際立つ気がした。
チケットは残っているようだった。値段も自分で計算した通りのようだった。
が先方から尋ねられる。
「支払いはクレジットカード払いが可能でしょうか?」
く、、、、、!!!!
ここでクレジットカードか、、やっぱり信頼が無いとダメか。。
が、諦めずに尋ね返す。
デビットカードはダメですか?
すると
「出来ます」
出来たあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!!!
諦めなくてよかった。。
この時の7046.25米ドルの日本円換算は817999円になった。
この時点で口座にあったのは814000円。あと3999円足りなくてまたまたヒヤリとしたけれど差額は帰国後の支払いになっても構わないということで落ち着いた。
つまりはこれで
南極ツアーチケットが手に入る。
が、立ち止まった。
このタイミング、この値段で手に入れることが果たして吉と出るか凶と出るか。取り逃がしてしまったとはいえ一度は6000ドル台のチケットを見つけてもいた。ここからでもキャンセルなど何かしらの巡り合わせで安いチケットが手に入ることもあるかもしれない。
日本にいるときから南極クルーズのチケットをさんざん調べたところではどのクルーズも2〜3人の相部屋チケットが一番安いことが分かっていた。目の前のこのチケットは1人部屋。ちょっとだけランクが高いのだ。相部屋で、かつ割引されたチケットと巡り会うことができれば6000ドル程度で入手できる見込み。ツアーに行ったあとも10万円近く手元に残り、残りの期間を南米で過ごすのもずいぶん楽になると思われる。
それに、この時点ではまだ現地のツアー会社というものを見回っていない。そこで何かしらものすごいミラクルが起こってもっと安く条件の良いチケットが手に入るかもしれない。が、昨日ダラスで気がついてしまった「どうやって大金を支払うんだろう」問題が現地で解決されるのかどうかもわからない。
好条件のツアーは、例えば年末年始を南極でまたぐ日程のツアーに惹かれていたりした。普段あまり記念日とか意識しない自分でも流石に南極で年を越すという響きは魅力的だった。あるいは、もっと早いタイミングで南極に行くことができれば余った期間で南米の様々な場所を探検する時間もできる。ずっとウシュアイアに滞在していてもそれはそれできっと良い冒険になるかもしれないが、いろいろな場所に行く方が観ている人にロマンを感じてもらえるかもしれない。
考え事は尽きない。限られた資源でどう上手に切り抜けていくか。不器用な自分なりに勘定を続ける。
(ちなみに、伝わりやすさを意識して順々に考えたことを記していったけれど、実際は同じところをぐるぐる行ったり来たりするようにして考えている。普通の人なら数十分で整理できそうな問題を5時間6時間とかけて考え込む。それがたじまこめおという人物である。)
頭を絞り尽くしたんじゃないかってくらい考え若干朦朧としながら決めた。
よし
とりあえず、買おう。
手続きを進めることにした。
「(直前なので)お手続きを早急にする必要があります。」本来であれば半年前とかから予約受付が始まっているようなツアーだ。なんとなく手続きが大変そうなイメージを抱いてちょっとプレッシャーがかかる。送られてきた書類の色々に名前を記入する。スマホからPDFファイルに文字を打ち込むことができることにちょっと驚いた。
同意書から色々と厳重な気配を感じる。さすが南極。とにかく健康であるかどうか、やたら訊かれる。環境省に提出する書類というのもある。特別な場所に行こうとしている意識がほんのり湧き上がる。
記入を終えて先方に書類を送る頃には明け方の5時くらいになっていた。時差ボケのせいだったりするのか、全然眠くない。
とりあえずは書類が受け付けられた。どうなるかはまだかわからないけれどこのまま普通に事が進めば、ついに、1年近く意識し続けてきた南極ツアー参加が決まる。
が、このタイミングでは申し込んだ後でもひたすら考えた。自分の申し込んだツアーは本当に正解だったのか。。まだもっといいチケットがあるのではないか。。
まだ、なにが起こるかわからなくて、ネットでみんなに伝えるのは後回しにしようと思った。状況次第ではキャンセルする可能性だってある。
9〜10日間程度の南極ツアーに参加するのに日本を出てから帰るまでの日程を50日間にしたのは、ツアーチケットを入手するのに長くウシュアイアに潜伏するつもりだったからだ。が、そのウシュアイアに到着する前に、南極ツアーのチケットが手に入ってしまうかもしれない。
気がつけばもう数時間後にはウシュアイアへの便が発つ。
くつろぎスペースで他の旅行者たちと同じように少し寝ることにした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
起きた時になにか物を盗られることくらいは覚悟していたけれど全てが無事だった。日本で南極行きを意識し、その手前の国であるアルゼンチンのことを調べ始めてからというもの、散々「治安が悪い」という評判を耳にしてきた。
そのアルゼンチンで無料で屋根付きの安全な場所がひとつ分かっていくらか気持ちが楽になった。最悪、この場所で50日間過ごしきれば無傷で日本に帰ることもできるかもしれない。今でこそこうして書いてみてもそんなことはしたくないと思うけれど、このときの自分はそんなことですら一筋の希望として受け取れるくらい身の危険を感じていた。
ひとまずは無事に泊まれたことをみんなに報告しよう。決して快適とは言えなかったけれど、面白い体験だったじゃないか。
結局、空港にて一夜明かしたのでした。 意外に快適(^^) これから国内線に乗ってウシュアイア向かいます。
Tajima Hirohisaさんの投稿 2017年12月8日金曜日
7時になろうとしている。次の便に搭乗するために荷物をまとめて腰を上げる。そうだ、ここからは目にするものすべてが日本にはない貴重な景色だから動画を撮ってみよう。この地の人々にとってなんでもないところでも、自分を見ていてくれている人には楽しく見えるんじゃなかろうか。カメラを構えて歩きだした。
昨晩泊まった場所はAターミナル。自分の便が出発するのはCターミナルというところで、この建物を出てしばらく歩く。カメラを構えながら歩くので道行く人にはきっと怪しく見えただろう。
ラテンな顔立ちの人々とたくさんすれ違う。途中、自衛隊のような人もいた。「治安が悪い」からそのことと関係しているのかと想像した。
程なくしてCターミナルに到着。
空港周りを走る車のスピードはかなり早い気がした。
搭乗の受付はスマホですんなり済んで待ち時間の間、またロビーのベンチに腰掛け空港内でカメラを回す。昨日から思っていたことだけれど空港って人間の良い瞬間がたくさん見られる場所だ。出会いと別れ、旅立つときの高揚感らしき雰囲気、たくさんの荷物と共に歩く人の旅感。ずっと空港に張り付いて写真でもムービーでも撮っていたら自分好みの作品が出来上がりそうだと思った。
あれが自分の乗る飛行機。
搭乗時間を知らせる放送がかかる。ターミナルから飛行機まで乗客を運ぶバスに乗り込む。荷物を手に持ってバスの中へ。アジア系の人は見当たらない。車内で明らかに少数派の自分に視線が集まってくるような気がした。バスは走り出して飛行機のすぐ近くで乗客を降ろした。
席はやっぱり窓際をチョイスしていた。ただし、さっきよりも景色が翼で見えない。
今回は国内便だ。たった3時間の短いフライト。あまり機内の安全さに甘えていられない。最南端の町に向かう飛行機は走り出して宙に浮いた。ブエノスアイレスがみるみる小さくなっていった。
エセイサ空港で過ごした24時間。一歩も空港の外へ出なかったけれど忙しすぎて(主に頭の中が)退屈するどころではなかった。むしろ自分にとっては最適な乗り継ぎ方だったのかもしれない。まだ南極ツアーはどうなるのか分からない。もちろんこの旅もどんなものになるのか分からない。この飛行機で目的地に到着。あとは完全に自由の旅だ。どうなるのだろう。どうにでもなるか。どうなるのだろう。いやどうにでもなるか。どうなるのだろう。。。
エセイサで動き始めてから飛び立つまでの動画
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