HIRO EATS THE EARTH

地球まるごといただきます

南極・南米 冒険編 No.4『ウシュアイアミラクル』

冒険のハイライトはこの日にやって来ました。故にこの記事が、わたしの中での「神回」というやつです。「南極の旅どうだった?」と尋ねられているのに、わたしはいつもこのウシュアイアでのことを一番熱っぽく語ります。そして1年経った今、確かな気持ちを込めて言える。この日のことが種子となって、自分の中に息づき、時間をかけて新しい人生観のようなものとなって自分の中に咲いてくれた。そんなわけで、とってもとっても力んでの19000文字と写真100枚以上のコテコテな記事になってしまいました。普段にも増して不器用に、わたしのミラクルをお伝えします。

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ウシュアイアは

ここにある。

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チリとの国境の感じがちょっと不思議。アルゼンチンの国土は途中で一旦途切れて、お隣のチリを通ることになる。

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近くで見ると海が入り組んで島がたくさんできているような感じだ。

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もう少し拡大して町全体を俯瞰するとこんな感じ。

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この、山と海に挟まれた小さな町が飛行機での移動の最終目的地だ。参考までに、ブエノスアイレスからの車でのルートを見ると

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全長は3073kmになる。グーグルマップでは【1日と13時間】かかると表示された。さらに参考までに、同じくらいの距離を日本で測ると

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北海道の最北端、宗谷岬から鹿児島県奄美市まで行ける。その距離は3051km

ちなみに、地図を見れば分かるがアルゼンチンはブエノスアイレスより北にもさらに国土が広がっているし横幅も太い。要するに日本より圧倒的にデカイ。ここは国土面積世界第8位の国(日本は62位)。地図やネットを通しても把握できる情報だけれど、実際に足を踏み入れ、その地での過ごし方を考えたりすることによって改めて実感出来た。

ウシュアイアまでの行き方はアルゼンチンでもメジャーな陸上移動手段であるバスも検討した。けれど、それでは丸2日間くらいかかってしまうと旅行体験ブログを目にしたことがあったので多少高くても所要時間3時間ほどの飛行機を利用することにした。

飛行機内の3時間はきっと一瞬だ。心を落ち着ける暇も余裕もないだろう。少しでも到着先のことを調べたかったけれど、自分のスマホはこの異国の地ではWi-Fiがあるところ以外では使えない。

自分の足でないものに運ばれる旅はこの飛行機が最後。あとは野に放たれる。予定は決まっていない。過ごす場所や泊まる場所もまだひとつも決まっていない。安宿を探すこともできるけれど、少ない資金で少しでも生き残る確率を上げるために、現地での協力者を見つけたい。

昨日カウチサーフィンでメッセージをくれた彼からはまだ返事が来ていない。既に丸一日以上が経っている。これはもしかすると期待しないほうがいいやつかもしれない。。

現地の詳しい地理もわかっていない。調べなかったわけではない。PCの画面を通してウシュアイアの様子を写真や旅行経験者のレビューでちゃんと確認した。けれど、せっかく情報を得てもそこが行ったことのない場所であると頭の中を右から左に通り抜けていってしまう。さらに、ネットで手軽に得られる情報よりも、現地でいろいろな人に直接あたって得られる「生きた情報」に特別な価値をやたら見出したがる。そんな偏った冒険根性のようなものが自分の中に深く根をはっているので、やはり画面を通して眺めるものに対してどこか「ヘッ!」と思ってしまい、結局頭に入らない。

そんなこんなで、結局丸腰で行くのが一番という結論になってしまうのだった。情報もまた荷物に感じたりしてしまうわたしはとことん手ぶらが大好きな丸腰野郎なのかもしれない。

すぐそこまで迫った旅の本番を前に、いつでも戦闘モードに入れるよう心にエンジンをかける。緊張する。冷や汗が手ににじんでいた気がする。

隣には現地人らしいご夫婦が座っていた。心のウォーミングアップがてら、手元をこっそり撮ってみる。いいね。
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現地で協力者を見つけていくスタイルを標榜する丸腰野郎の頼みの綱は、何と言っても人との出会い。偶然出会った人の助けで食べて寝て生きていきたい。つまり運だ。ラッキーだ。ミラクルだ。ミラクルをひたすら期待する丸腰野郎はこの夫婦を見て妄想した。

見てなベイビー。このお隣の仲睦まじいご夫婦がこのアジア臭プンプンのオレに話しかけてくれるのさ。「どこから来たの?」ってね。待ってましたと自己紹介タイムのはじまりさ。「俺ぁ地球の裏からやってきたんだぜぇ。そしてこれから行くはどこだと思う?聴いて驚け!あの南極さぁ!まだ日にちは決まってねぇけどな。今日泊まる場所や食べる場所も決めてねぇよお。そんな放浪状態の俺だけど日本じゃカメラマンをやってたのさ。写真見るかい?どうだ?素敵だろう!これからこのでっけぇ立派な国もバシバシ撮って楽しませていただくぜぇ〜!」って具合にな。泊まる場所がないこともさり気なくアピールするのがポイントだぜぇ。え?「カメラマンと自覚してないって前に言ってたけどいいのか」って?いいのさいいのさ!そんなのは方便。それで仲良くなれるなら御の字。あちらさんはひたすらオレの話を面白がってくれて、最後にこう言ってくれるのさ。

「せっかくだからウシュアイアの自分の家で泊まっていきなよ!」

むふふふふふふふ。完璧さ!

丸腰妄想野郎は隣の乗客にチラチラ目を配らせた。が、あちらはふたりで仲良く語り合っている。こちらに興味を持つ感じはない。

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しばらくすると自分の隣に座っている奥さんの方がお菓子の袋を取りだした。ナッツだった。袋を開けて、旦那さんに分ける。そしてその袋を持ったまま、こちらに目で合図を送ってきた。

その仕草は明らかに

「あなたも食べる?」だった。

左手を広げて袋の下に差し出す。そしてナッツがするすると掌の上に滑り降りて小さな山を作った。ひと粒口に放り込む。

うまい。。。

日本で食べたことのあるあのミックスナッツと変わらない美味しさ。少し食べて食欲が刺激されたからか、空腹を覚える。そういえば昨日からしっかりしたものを食べていない。機内食のパンだけでは大食いの自分には不十分すぎた。

丸腰妄想野郎は賜った美味を噛み締めながら己を省みる。

こういうやりとりをさ、故郷のJapon(「ハポンスペイン語の『日本』)でおれは一度でもしたことがあったかってんだよ。飛行機でも電車でもバスでもいいさ。居合わせた外国人、いや、誰でもいい。自分の持ってる食べ物をなんでもないことのように差し出すこの感じをさ、お前さんしたことがあるかってんだよ。。

「南米の人はフレンドリー」そういう集団を一括りにするような印象の持ち方はもともと好きではないけれど、たった今左手に積み上がったナッツを通して南米の人の在り方がイメージ通りであることを示された気がした。人と人との壁が薄い。島国からやってきた丸腰妄想男はこのとき確かに南米の人のそんな在り方に憧れた。

チャンスである。まさかの向こうからのコンタクト。膨らんだ妄想を現実にする千載一遇のチャンスである。輝かしいミラクルがキミを待ってる!丸腰妄想野郎よ、今だ、行け!!

、、、、が、動かなかった。簡単な礼だけ伝えるとまた元の体勢に戻って窓の外や前の椅子の背を見つめる。「この流れで話すのはなんだか図々しい」「いまはタイミングじゃない」頭の中で言い訳めいた弁解が浮かびあがる。単純に怖がっているだけなのを隠す時はいつもこうなる。時間だけが流れる。

程なくして飛行機は経由地のトレレウに到着した。周りの乗客たちがほぼ全員立ち上がって荷物の支度をして降りていき、機内には自分一人だけとなった。

自分の航空券は今乗ってきた①ブエノスアイレストレレウ。そして次に出る②トレレウ〜ウシュアイアの2枚で分かれていたので、自分もここで飛行機を乗り換えるのかと思った。

焦って荷物を持ち機内の前の方のアテンダントさんに航空券を見せながらしどろもどろに尋ねる。すると、どうやら自分は乗り換えをせずにこのまま元の席にいれば良かったらしい。

戻ろうとした時、同じ乗客らしいアルゼンチン人っぽいおじさんが1人ぽつんと前の方の席に座っているのが目に入った。やはり自分と同じような勘違いをしたらしい。が、彼は後方の元の自分の席に戻らず、そのまま前の方の席に座っていたのだ。そのままウシュアイアまでその席に居るつもりなのか。多分、このトレレウから搭乗する人で席はすべて埋まるんじゃなかろうか。

するとおじさん、こっちに向かって手招きしてくる。「あんたも前の方の席に座ったらええやん」多分そんなかんじだ。それができるなら楽だなあと思って促されるままに座ってみたが、すぐにわんさか乗客が入ってきたのでやっぱり引き返した。

これから先、交通機関を使う度にこんな細かいドタバタがたくさん起こるんだろうな。当たり前のように交わされるスペイン語のほぼすべての意味は当然理解できない。さっきみたいにひたすら困った顔をしながらチケットを見せたり、困った自分の様子を見かねて声をかけてくれるような人に助けてもらって先に進んでいくのだろう。こんなことでどこまで通用するのか。

程なくしてトレレウを飛び立つ。

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いよいよ、心中がこれから野に放たれる怖さで一色になる。オドオドしてせっかくのトレレウ離陸時の景色もこの一枚しか撮らなかった。

日本にいる時から何度も繰り返してきたシミュレーションの最終確認を開始した。ウシュアイアで、まずは空港泊ができるか確認だ。24時間空いていればしめたもの。難しければ町中だ。とりあえずWi-Fiのあるところを探そう。町をふらついて助けの手を探す。24時間営業の店とかあればそこで過ごせるな。いきなりポートレートとか撮らせてもらってお金もらえたりしたらもう最高だよね。よし。よし。

1時間ほどだいたいこんなことをループで考え続けた。どこが「よし。よし。」なのかと突っ込みたくなる気もするがわたしの冒険の「計画」はこんな感じである。

そして

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雪山だ。

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とても暑かったブエノスアイレスから季節がまた冬に戻ったかのようだった(実際はここも夏)すごい。。

山をどんどん超えていよいよ見えてくる。

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あれが、ウシュアイア!半年以上前に初めて知って、以降ずっと意識にあったその町といよいよご対面。地図どおり海と山に挟まれている。おおおおお〜!

たくさんの船がある。出港した一艘は、南極に行くのか漁に向かうのか。

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南極の玄関、ついに着陸。

ウスワイア=マルビナス・アルヘンティーナス空港

飛行機を出てみると、冷やっとした空気に包まれた。が、予想していたよりも幾分かあたたかい。でも、やっぱり寒い。ウシュアイアの空気。気温は13℃。

降りて実際に見た空港はとても好きな雰囲気だ。コンパクトな規模感も良い。カフェや休憩場所もある。きっとここでゆっくりするのも良い時間だったんだろうと思う。泊まる場所さえ決まっていれば。

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それでは、はじめよう。

今晩、泊まる場所を探せ!!

まずは昨日、カウチサーフィンより突然舞い降りた彼にコンタクトをとりたい。が、Wi-Fiが必要だ。この空港のWi-Fiを使いたい。スマホの通信反応を見るとなんとフリーWi-Fiが4つもある。よし、繋いでみよう!

繋いでみよう!

繋いでみよう。

繋いでみよう…

ネットが表示されない。2つ目、3つ目と試しても表示されない。空港ロビー内を歩き回って繋がりやすい位置を確かめる。が、ダメ。むむむ、やはり地方になるとダメなのか。。

よし、通信ははひとまず置いて、この空港が泊まれるかを調べるぞ。空港内を歩き回ってみる。

が。雰囲気から感じただけで誰に聴いたというわけでもないのだけど、ここはおそらく夜に閉まるだろうと察した。やばい。実は一番アテにしていたところがつぶれた。。

よし、次のプラン。空港を出よう。

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とりあえずは町中のツーリストインフォメーションセンターを目指してみようと思った。いい情報をいただけるかもしれない。ネットでちらっと見たところによるとWi-Fiとコンセントもあるようだ。無料で使えるならベースキャンプにもなり得る。

ウシュアイア空港からツーリストインフォメーションセンターまでのルートはこんなかんじ。

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ウシュアイアのことを調べていた時に「空港から町中まではタクシーを使いましょう」という感じの旅行レビューをよくネットで見かけたことがある。実際、どの人も空港前にたくさん停まっているタクシーを使って町に向かったようだ。

が、地図を見ると歩く距離は6kmもない。自分にとっては全然歩ける距離だ。

バックパックを背負って三脚を担ぐ。はじめはダウンを着ていたけれど、歩いてるうちに暑くなりそうだったので腕にかけて持つ。やっぱり重い。目の前に伸びる道に足を踏み出した。

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たんぽぽが咲いている。
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歩く。

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この、、この、、、、

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景色の!
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なんっと!

素っ晴らしいことか!

空気も心地良い!なんだろう、透き通っているっていうのかな。これは余計にタクシーに乗らなくてよかった。荷物は重いけれどしばらくなら全然歩ける。それよりもこの景色!雪山がこんなに連なって海があって青くて、うわぁあああぁぁぁ〜〜〜〜すげぇぇぇえええぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!

周りにはほとんど誰もいない。たった一人でこの贅沢な景色を独り占めしているような気分になる。冒険のはじまり。胸が高鳴る。RPGゲームのBGMを脳内再生させる(主にFFのオープニングテーマ)。本当に物語の登場人物になったみたい。ワクワクするってこういうことか。

泊まり先とか、南極ツアーとか、細かく考えることがたくさんで、不安でいっぱいだったけれど、このときばかりは景色に純粋な冒険気分を味わわせてもらえた。

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海辺を散歩する家族連れ。f:id:tajimax-tj:20181108105441j:image

走り込みのトレーニングをしている人がいたり、普通に歩いている人もいる。

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海とか入る動画でも撮ろうか一瞬頭をよぎったけれど、それよりも宿が取れるかどうか不安すぎたのですぐにやめた。

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町が近づいてくる。カラフルだ。

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あ。
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馬。

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馬だ。
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誰が飼っているのだろう。道路から逸れて近づいてみる。遠くから突然の珍客を知覚しじっとこちらを見つめる馬。警戒しているように見える。そーっとそーっと距離を詰めるけれど、馬は離れた。あまり近づかない方が良さそうだ。

馬を過ぎて少し歩くと見えてきた。ウシュアイアの入り口。ここまで来ると車通りも多くなる。やっぱり1台1台ちょっとスピードが速い。自分の走るスピードとの対比でなんとなく分かる。
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ここからは居住地だ。ミラクルな出会いを求めて、えいやっと地図に表示された一本道から逸れて住宅地を通ることにした。

"Hola amigo!(オラ アミーゴ!)"

突然大声で呼びかけられた。声の方を見るとなにやらこっちに来い的な手招きをしている男性が。なかなか動き出さない旅行者に対して、むしろ自分から近寄ってきた。

「どこから来たんだ?」(スペイン語だけどこれくらいなら分かる)

日本です!

「おお〜!ようこそようこそ!!」

手を合わせながら頭を下げるような挨拶をしてくれた。多分このポーズアジアらへんのイメージや。

いろいろと話す。(というかほとんどあっちが話してるのを聴いてる。)もちろん何を話しているのかは全然わからない。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ここで、誰の役に立つかわからない当時のこめお流世渡り術(外国人編)を説明しよう!

母国語の異なる外国人との会話。そこにハードル高さを覚える人は少なくないでしょう。しかし、わたしはそれでもいっこうに構わない!仲良くなるのに、言葉はいりません!!

まずは相手の顔と空気で判断しましょう「良い感じ」か「悪い感じ」かです。悪い感じなら速やかに離れます。「良い感じ」なら次のステップです。

相手の熱量についていきましょう。具体的には、ただ相手の顔を見てその感じにあわせる。目を丸くしていたら自分も丸くする。笑っていたら自分も笑う。ここで大事なのは、形式で真似をするのではなく、よく見て自分なりについていくことです。そして最後に必殺!言葉の切れ目に相槌を打つ!!

これで完成。相手からはあなたが話を理解して楽しんでいる外国人に見えます!可愛がられ率3割アップ!!ミラクル発生率は5割アーーーーップ!!!!!(書いてみたら案外ふつうのことだった。。)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

こんな世渡り術っぽいものが自分に備わっていることを10年ぶりの外国人とのがっつりした会話で認識した。

世渡り術が効いたのかはよく分からないがあちらはどんどん話を繋げてくる。

たまたま近くでバスを待っていた少年を指さして"hijo(イホ)"と言った。授業の記憶を辿りたしか、、息子って意味だった、、よな。おお!息子かぁ!

"hola(オラ)"と声をかける。が、少年は軽く手だけ動かすだけでむしろおじさんの紹介が鬱陶しそうな顔をした。なるほど、この温度差。あまり言及しないでおこう。

結局、彼は話すだけ話し、終わるタイミングもあちらが決めた。町の中心がどの方角か、尋ねなくても自分から教えてくれた。別れ際、手を合わせるところを撮らせていただいた。ちょっと話が噛み合わなかった感じもするけれど、初めての土地で初めての人と会話するならとても良いステップだ。

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おじさんと別れて先に進むと、今度は上から"Hola, amigo!"と声が降ってきた。見上げると住宅の2階のベランダから声をかけてくる兄ちゃんがいた。手を振って応じると明るいガッツポーズを返してくれた。

ウシュアイアはなんだか色が明るい。背景にそびえる雪山の厳かさのような空気と良い混ざり方をしている気がする。

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"Hola amigo!"

今度は庭先で芝刈りをしている兄ちゃんに声をかけられる。

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こめお流、丸腰の基本。

それはとりあえず、ノることだ。

この南米なら、きっと相性の良い戦術のはずだ。

すかさず応じる。イエ〜〜〜〜イ!この空気感ならいきなり写真を撮っても大丈夫。きっと。うん。やっぱり。ありがとう。

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お友達になれるかなと思ったらなんだか妙なテンションだ。いや、これがアルゼンチンの普通か?楽しむことはできるが、とりあえずいつどこから来たかという話はして、あとは言葉は分からずウェイウェイやってそれ以上の発展なく終わった。が悪くない。悪くないよ。

『amigo』(友達)

ちょっと歩いただけなのに、声をかけてくる人は基本的にamigo呼びをする。初対面でもとりあえず「友達」と呼んでいる。

日本では「やあ!友達!」なんて言い方はしない。そもそも見知らぬ人にそんな陽気な声をかけたりしない。

彼らにとっての「友達」の定義はさておき、とりあえず言葉として染み付いているのがこのamigoのようだ。軽やかに放たれるその言葉から始まる彼らのやりとりがとても気に入った。

タクシーに乗っていたら素通りしていたであろう住宅街。そこに突然現れた異国の人間に対して警戒するでもなく陽気に声をかけてくるウシュアイアの人々と生まれた小さな関わりの数々。これは幸先が良いんじゃなかろうか。中心街に向けて歩を進める。

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あ、犬。

かわええな。と思ってパチリと撮った次の瞬間。

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バウワウワウワウワウ!!!!!!!(鬼吠

起き上がってこちらに猛ダッシュ

「トラップかっ!!!!!!!!!!」

内心どこかでツッコミを入れながら追いかけてくる犬から必死で走って逃げた。犬に追われて逃げるなんて生まれてはじめての経験だ。野犬なのか飼い犬なのかわからない。しかし総じてアルゼンチンの犬はこのくらいの勢いがあるであろうことは簡単に想像できた。

なんとかあちらが諦めて無事逃げ切り成功。助かった。。恐るべし。異国の番犬よ。。

ラテンなカフェ。
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よくみると、カラオケがあるとのこと。スペイン語でもわかりやすいのねカラオケ。

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でも、こんな景色の開けた町なら南極に向かって歌うほうが気持ち良さそうな気もする。

道路。
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信号機。

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海沿いを歩いていると遠くの方に見えてくるあのあたり。あそこが中心街。

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行き交う人が増えてくる。

10匹くらいの犬を連れているおじさん
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海辺にたたずむおじさん

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途中目にするレストランやカフェ。飲食系のお店はコンセントやWi-Fiがないかチェック。ついでにお値段もチェック。物価は高くもなく安くもない。日本的な水準のようだった。観光客向けなのかもしれない。つまり、今の自分にはけっこう高い。

どんどん街中へ。写真を撮って紹介したくなるような建物をいろいろ目にしながら通り過ぎて、あった。インフォメーションセンター。

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Ministry of Tourism Ushuaia

とりあえず中へ。壁を埋め尽くすようにいろいろな張り紙が並んでいる。カウンター前には人が並んでいる。腰掛けられる場所。その下にはコンセント。そして、Wi-Fiを、、、、、、、、あれ。つながらない。あれれ。だめか。空港に引き続きここでもWi-Fiに嫌われる。いかん。一刻も早く連絡を確認したいのに、、

ここは仕方がない。一銭もお金を使うつもりはなかったけれど、カフェでもいこう。これも少しネットで調べたが、町のセンターの近くにWi-Fi&コンセント付きのカフェがあることだけはわかっていた。詳しい場所までは覚えていないのでインフォメーションセンターのお兄さんに尋ねる。英語が話せる人だ。パンフレットを取り出す。

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地図の面を広げて見せてくれる。グーグルマップで何度も確認したのと全く同じ地形なんだけれど、どこか異なって見える。その地域の人の目線を入れた地図。

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ボールペンで示された場所は歩いてほんの100メートルほどだった。

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Cafe Xpresso

カジュアルな店内。スターバックスタリーズを思い出す。大学生っぽい男女がテーブルを囲んでいたり、おじさんがひとりで新聞を読んでいたり、男女で向かい合って笑い合っていたり。日本のそれと何ら変わりない。客の顔と、聴こえてくる言葉が違うだけで。

コンセントの近い席を探す。突然現れたやたら大荷物の小汚いアジア人がこの動きをするとかなり目立つ気がする。席はすぐに見つかった。四人ぐらいで掛けられるテーブル席。

店内のコンセントの多さに少し驚いた。「ふつう使うでしょ?」みたいなこの感じ。日本のカフェでは基本疎まれることだと感じているので、こういうところで地味に居心地の良さを感じる。

そういえば、まだアルゼンチンペソを全く持ってない。店員さんに尋ねてみた。「dolar ok?」(ドル、良い?)と体当たりのカタコトと共にドル札を見せてみる。どうやらオッケーだったようだ。

コーヒーが一杯4ドル。450円くらい。その値段を高いと感じて躊躇する。けれども連絡のためだと気を持ち直して注文した。ありがたいことにカウンターにはWi-FiのIDとパスワードまで記されていた。

席につく。なんだかんだ大荷物で6kmは歩き疲れた。。席について一息つく。コーヒーが染みる。コーヒーが好きだ。日本で飲むコーヒーとの違いは、、あまりわからない。前を見るとテーブルを2つつなげ8人くらいで大きな声で笑いながら過ごす男女の若者たち。

さあ、ようやくだ。ゆっくりメッセージのやり取りができる。まずは一番気になる昨日のカウチサーフィンの彼だ。メッセージが、、

届いていない。

一縷の希望よ。。応答してくれ。。

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がっつきすぎないように。でもすごーく助けてほしいのだと言う微妙なニュアンスを"very"にこめた。。つもり。。。が、返事が来ない。

エセイサ空港で手当たり次第に送った他のホストへのメッセージも返ってきていない。さらに他のホストも調べてみる。ひとりひとりの顔写真や自己紹介を眺める。笑顔の素敵なおじさん。無表情の若い男性。ちょっと年上っぽい女性。はっきりとしたニュアンスまでは理解できなかったけれど「異国の人と笑い合いたい」というピースフルな人がいれば、「有意義な時間を提供できそうな人以外お断り」というストイックな人もいる。いろんな人がいるんだなあ。焦る自分とは別のところでぼんやり呑気に思った。やはりすぐに返事が返ってきたりはしない。

本当は町中を歩き回るほうが良い気がするけれど、やっぱりこの大荷物を持ち運びながら歩くのはちょっと辛い。引き続き「救難信号」をネット上で送り続ける。

2時間ほど経過した。もうすぐ19時。まだ外は明るいけれど大体の人は家に帰っていく時間だろう。直感する。いよいよ、やばい。体の底からざわざわし始める。

怖くなってきた。

恐怖に直面した時、考えることは後ろ向きになっていく。

無謀だったかのもしれない。

見知らぬ町に行ったその日にその場の誰かからの寝食の助けを頂こうだなんて。ある日突然現れた薄汚い異国の男に手を差し伸べるなんてこと、誰がやりたくなるというのだろう。本来、旅行というのは先ず安全を確保するものだ。下調べを入念にして、安く泊まれるホステルくらいは把握しておくものだ。それなのに自分はコーヒー1杯分の少ないお金すら出し渋って結局カフェの片隅で惨めにスマホとにらめっこしている。

夜の気温は7℃。少し歩いてみた感じ、じっとしていると日中でもフル装備でないと寒い。それなのに、寝袋もテントも持ってきていない状況で「最悪の場合、野宿しよう」だなんていったいどの口が言ったのだろう?

行けばなんとかなる。

不安がりながらも地球の裏の最果ての町まで来られたのは、どこかしら希望を持っていたからだった。けれども、その浅はかな希望もいまたやすく消え去ろうとしていた。

ひとり。

ほんとうにひとりだ。日が沈むまでに会いに行って助けを求められる知人などいない。身体を横にして休めるような、無条件で居られる自分の居場所はない。生活のための最低限の荷物を持って、どこかから夜逃げしてきたような丸腰妄想バックパッカー

無様だ。いい歳こいて無計画。この旅にはじまった話じゃない。日本にいるときから、というか生まれた時からずっといきあたりばったり。わたしのことを快く思わぬ人はこんなわたしを見て「ザマアミロ」とせせら笑うだろうか。応援してくれたあの人は悲しむだろうか。やっぱり自分程度の人間の横暴は単に人の迷惑になるだけなのか。恥ずかしさ、申し訳なさ、やり切れなさ、惨めだ。顔を上げているのもいやだ。テーブルに突っ伏した。

何もない。真っ暗。。

その真っ暗の中

声がする。

何もかも諦めたくなった

なにもなくなった

そう思った自分が

最後に頼れたこと

それは、あの

意味不明で、

理解不能で、

ずっと取っ組みあって来た

あのアドバイスだった。

「お前は、動け!!」

 

確かに、おれにはもう何もない。

でも、まだ、動ける。

荷物が重いとか、家が見つかるかとか、

旅が成功だとか、みんなの期待とか

そういうの、もう、何でもいい。

何も持ってなくたって、

何がどうなったって

おれは

この身体が動く。

動かそうぜ。

よし。

行こう。

 

伸びをした。

腕、首、肩、背中、伸びる筋肉を感じて、相当固まっていた事を自覚する。

立ち上がって荷物を背負った。

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センター街は賑わっている。

中国人の家族連れがいた。見た目だけではすぐにわからないけれどアルゼンチン国外からの旅行客のような人もいた。ここは南極ツアーに参加するための拠点となる町。ツアーシーズンである今は観光客がたくさんいる時のようだった。

この中の誰か一人でも泊めてくれたら。頼み込めば一人くらいそんな人だっているのかもしれない。が、やっぱり尻込みしてしまう。はじめに話しかけてきてくれたハイテンションな彼らのようなフレンドリーさを見せつけてもらわなければ、自分からはろくに関わることもできない。

とりあえずは、また空港に行って本当に泊まれないか、尋ねてみよう。さっきは確認せずに町中まで出てきてしまったのだから。

空港から歩いてきた道をそのまま歩く。

さっきまで考え込み過ぎてしまったせいか、自分から、まるで覇気がでていないことを感じる。

いかん。

こんなことではいかん。

こんなことでは些細な幸運すらも自分から逃げていくではないか。

ラクル頼みなら、せめて顔だけでも笑っとけよ。心が青ざめてたって、顔の神経繋がってんならさ。ほんの少しだけ強引にでも明るく行くのさ。

例えばさ、ほら。。 

 

ーーミラクル。

それは、いつどこからやってくるかわからない。

滅多にお目にかかれるでもない。

だから奇跡なんだ。

 

今この、歩き進む先の交差点。あそこでジャグリングしている兄ちゃんを盛り上げるとかさ。

 

ーーでも、もしかするとそれは

自分がそう思っているだけで。

本当はすぐそこに

転がっているのだとしたら。

 

赤信号で待機している車の前で、3本のボウリングのピンのような形のスティックでジャグリングをしている男性が見える。

 

ーーほんの少しだけ。

ほんの少しだけでいい。

素直な心を世界に開くだけで。

 

信号が青に変わる直前までパフォーマンスを続け、両手にスティックを収めフィニッシュ。

 

ーーそこに、ふっとある。

そんなものだったりは、しないだろうか。

 

まだ話せる距離にいないくらい遠くの彼に伝わるように両手を広げて頭の上で拍手を送った。彼は遠くから拍手を送ってくるバックパッカーを見つけるとスティックを握った両手をそのまま天高く掲げるガッツポーズで応えた。

 

ーーこれは、そんなお話だ。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

彼は笑顔で右手を差し出してきた。

はじめはスペイン語で話しはじめたが、目の前のアジア人がスペイン語を話せないことを知るや否や

英語で話した。

なんと!!

自己紹介がひと通りできる!!!!

嬉しい。嬉しすぎる。

意思疎通ができる!!!

自分が日本からきたこと。今日、このウシュアイアにきたことを話すだけで彼はとても面白がってくれ、興味を持ってくれたようだった。他にもちょっとした身の上話をお互いに交わした。

感じる。

この、親しげでピースフルな雰囲気。

直感というやつがすごい方ではないと思う。

けれどもあの時ばかりは。

今だ。

「今晩泊まる場所、探してるんだよね。キミの家、大丈夫かな??

床さえあればいいから!と念押しする。

あえて軽く尋ねたつもりだった。

けれどきっとその様子からはどこか必死な感じが滲み出ていたかもしれない。

 

彼は笑った。 

「いいよ!」

ええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇええーーーーーーーーーーー!!!!!!

二つ返事ぃぃぃぃぃーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!

ありがとぉぉぉぉおぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーう!!!!!!!!!!!!!!!!

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

彼の名はMaxi(マクシー)と言った。

忘れないようにノートにサインを書いてもらった。

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彼はもう少しジャグリングしていくということだったので側で待つことになった。

 

え?

 

ていうかちょっとまて。

 

ちょっっっとまて。

 

いま、何が起こった?

 

ついさっきまで今晩泊まる場所がなく、そのまま死ぬかくらいに思ってゾンビみたいに彷徨っていたのに。

あれ?

泊まる場所が決まっている。

あれ。あれれれれ??

一瞬で飲み込めない状況を少しずつ吞み下す。

大問題から解き放たれたのだ!

ならば、今は。。

望遠レンズをカメラに取り付けた。

この彗星のごとく現れた救世主に贈り物をしたい。

写真を撮りまくった。勢い余って何度もミスショット。頼まれちゃいないけれど、だからこそ撮る。期待を上回る写真を贈るために。

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パフォーマンスを終えると投げ銭をもらって回る。半分以上の人がちゃんと見物料を差し出していた。

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何だかお金をいただくことに対して、軽やかだ。

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休憩。

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再開。
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撮っても撮っても、まだ撮る。まだ撮る。撮り始めに撮れたいい写真のことも忘れるくらい撮りまくる。これが当時の自分のマジになっているときの撮り方だ。ていうかマクシーがかっこいい。

目の前に立つこの救世主のことを素敵に日本の仲間に伝え。そして本人にも喜ばれる写真が撮りたい。旅立ってから彼と出会うまでの写真、そして今この彼を写す写真。明らかに熱量が違った。

出会った人に写真という贈り物ができる。贈ることができれば自然と深い関わりができる。自分にとっての写真の元々の在り方はやっぱりこだと撮りながらこの身で再確認した。

しばらくしてパフォーマンスを終えた彼は荷物をとりにいった。


これからスーパーで買い物をして帰るという。スーパーはすぐ近くにあった。

La Anónima(ラ・アノニマ)

中の雰囲気を見て日本の西友みたいだと思った。買い物客で賑わう。

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「ここで食べたいものがあったら買っていくといいよ」とマクシー。別々にスーパー内を見てまわる。

スーパーがとても好きだ。食べ物が安いし種類も豊富。そして、その場所の人たちの日常を垣間見ることができる。

〜〜〜

10年前、インドにボランティアのためにバックパッカー旅を2週間した。その時の一番心に沁みた思い出はいかなる観光地の景色よりも、とある晩に現地で知り合った方のお宅に招かれ、振る舞っていただいた、バナナの葉に載せられた小さな器に入った数種のこざっぱりとしたカレーとチャパティ、つまり家庭料理だった。

旅先で惹かれるもの。それは観光名所のような「良いところ」もそうだけど、それ以上に、スーパーとかだれかのお家のような「普通のところ」なのだと思う。どこに行くにしても、その人たちの日常に興味がある。日本で過ごしていてもやっぱり繕われたものより日常に興味が行ってしまう。


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ウシュアイアで暮らす人たちはきっと日々、この大きなスーパーで暮らしに必要なものを買い揃えているのだろう。日常だ。その日常を垣間見える嬉しさをマクシーに伝えようとしたけれど上手に英語にまとまらず結局「スーパーが好きだ」としか伝えることが出来なかった。

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泊まる場所が決まっている状態の安心感ときたらすごい。いくらでもスーパーを眺めて回れる。が、マクシーを待たせてもいけないので早めに自分の食料を確保する。

安くてうまそうなものをいろいろ物色した結果、スティックパンケーキのようなものを選んだ。マクシーの元へ合流すると彼はいろいろ生活用品を調達しつつ、安いクラッカーを買っていたのを見て自分もそれを真似して買った。

「ぼくはそれは食べないなぁ〜」

マクシーはヴィーガンだという。苦い顔で何やら怪しげな甘味料がたっぷり入っていそうなパッケージのパンケーキを見て言った。

買い物を終えるとマクシーの自転車をとりに行く。この、やたらビビッドな建物はなんと図書館だ。マクシーは特に駐輪場と定めれていないところに自転車を停めていた。

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鉄格子の向こうにマリア様っぽい女性。

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マクシーの家ではWi-Fiは飛んでいないとのことだったので、家に帰る前に町中でWi-Fiを繋ぎ、連絡を確認しておきたかった。マクシーは街の中心あたりでWi-Fiが飛んでいる場所まで連れて行ってくれたが、なぜか繋がらなかったので、連絡は明日以降に持ち越すことにした。

さらに家に向かって歩を進めるとマクシーの友人と鉢合わせた。

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スペイン語でなにやら話し始め、マクシーがなにかを取り出した。やたら興味深く覗き込む自分に「ぼくが作ったんだよ」と説明してくれた。仲間から小銭をもらっていたので仲間内で販売をしているんだろう。

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どうやって食べるのか詳細まで尋ね忘れた。焼いたり揚げたりして食べるのかな。きっとヴィーガンの彼が作るのだから無添加だったりオーガニックなかんじなのだろう。そしてきっとそういったものは市場に出回りにくいから、こうしてヴィーガンヴィーガン食が好きな人同士で助け合っているのかもしれない。

友人との話が一通り済むとマクシーは軽く隣の日本人のことを話題にした。友人は笑って握手をしてくれた。

町のセンターは海に近い場所。マクシーの家へは、そこから山がそびえる方向に向かって歩く。上り坂だ。

坂を登る途中でまたマクシーと親しいのであろう人たちと会う。

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スペイン語の立ち話を。横で突っ立って聴いて、時折写真を撮る日本人。

ネイティブなスペイン語にはついていけない。のっけから振り落とされる。が、わからなくても別にいい。会話の雰囲気を観ているだけで楽しいのだ。表情や微かに聴き覚えのある単語から内容を想像したりする。答え合わせは特にない。けれどもこんな時間を楽しんでいればやがては普通にスペイン語に慣れることもできるような気がした。

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程なくして別のマクシーと親しいであろう女性が通りかかってくる。

彼女はマクシーに頬を差し出した。マクシーはそこに頬を重ねる。どちらが立てた音かわからないが「チュ」と音がする。これが彼らの挨拶のようだった。

ここでの挨拶は男性同士で多いのがタッチと握手。そして男性同士でも時々、そして女性が含まれる場合は必ずこの「空キッス」のような挨拶を交わす。エセイサ空港についたときから何度もそのやりとりを目撃していた。

先程の友人のときのように日本人の紹介が済むと、彼女は自分にも頬を差し出してきた。

どぎまぎする。

名も知らぬはじめましてのお姉さん。あなた、なんでもないことのような顔で目を閉じて頬を重ねられるの待ってますけれど、それ、焦りますからね。わたしの生まれた小さな島国ではそんなどぎまぎすることやりませんからね。

とまどったまま、見様見真似で、ひたすらぎこちなく頬を重ねると女性はよく響く音で「チュ」と鳴らした。29歳日本男児のチェリーボーイのようなアルゼンチン挨拶デビューだ。

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更に歩いて山の方へ。頭の中でなんとか道を覚えようとしていたけれど、もうスーパーの位置からはここまで一人では来れない。

と思ったあたりで着いた。

こ、、これは、、、、!

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でかぁぁぁーーーーっっっ!!!!!!!!

と思ったら写真の中の彼が立っているあたりの一室を借りて住んでいるとのことだった。

ここには本来管理人さんがいて、自分のようなふらりと来た人間が泊まろうとすると他の安宿と同じくらいの値段をお渡ししなければならないが、今その管理人さんは留守にしているとのことだった。いつ帰ってくるのかはわからないという。つまり内緒でタダで泊まらせてもらうことになる。管理人に見つかったらマクシーが大変面倒だろうに、彼の独断とご厚意に守っていただいている。

軽やかに自分の家の事情を説明するマクシーの存在がどれほど神々しく感じられたことか。

家の前ではものすごくよく吠える飼い犬がお出迎えした。その勢いが遥か異国の人間に反応したからなのか、単に来客があればいつでもそうなのか、よくわからなかったけれど、飼い主がなんでもないことのようになだめたので多分いつものことだ。

ドアを開けて中へ。靴のまま入ってすぐ右にはキッチン、まっすぐ奥には6畳ほどの部屋。その手前右手にはトイレとシャワールーム。1Kアパート分の間取りに近い。

奥の彼の部屋の隅に荷物を置いた。照明がなかった。電球が付いていたであろうソケットが天井に一つついている。

「ついてきてくれ」と外に出て、別のドアから再び建物に入る。今度は2階へ通じる階段が見えた。暗い。階段の先がよく見えない。マクシーが先に登って後ろをついていく。2階はまた広いリビングのようなスペースがあったけれど、テーブルも椅子もホコリがかぶっていて長らく使われた雰囲気はない。マクシー以外の入居者はいなそうだ。

「いつもここを通るのが怖いんだ」

確かに、怖い。マクシーが先に、自分が後に続いて一緒に階段を登る。

外観の写真から見る限り三階は電気のついていない広い部屋だった。使われていないテーブルや椅子が埃をかぶって置かれている。

ベランダに出られる窓があるので外を眺めさせてもらった。これが、22:14。ちょうどこの季節の日の入り時刻。

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ウシュアイアの緯度は南緯にとても高く、夏に当たるこの時期は太陽はなかなか沈まないんだと想像できた。南極が白夜ならその手前のこの地だって白夜に近い空になる。初めて体感する緯度の違い。こんな遅い時間まで明るい場所があるんだ。

反対側のバルコニーへ出て何やら屋根に設置していたものを降ろすマクシー。

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どうやらソーラーパネルを置いていたらしい。それを持って再び階段を降りて1階の自室へ戻る。ソーラーパネルをなにやら長いものにつないでスイッチをいれると。

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電飾だった。この灯りで夜を過ごすのだという。かなり薄暗かったけれど、最低限クラスのには困らなさそうだ。なるほどこれがヴィーガンの彼らしい。

上の階に置いてあったマットレスも貸してくれた。

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これに加えて毛布も貸してくれた。ジャケットを脱いで寝ても全然大丈夫そうだ。これがウシュアイアでの初めての寝場所。こんなに出来すぎた寝場所がいただけるなんて。。

何の流れかは忘れてしまったけれど、彼と一緒に家の前に出た時に近所のこどもが道路で遊んでいた。もちろん見知らぬ異国人がいることに気がついて駆け寄ってくる。

"De donde?"(どっから来たの?)

必ず尋ねられるからすぐに覚えた質問に"Japon!"(日本だぜ!)と勢いづいてみせた。

 

 

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夜になる前の作業が終わったところで一息つく。彼のデスクであろう椅子に腰掛けさせてもらう。コーヒーを淹れてくれた。ちょっと不思議な味がしたけれど拾われたばかりの自分にはとても染みた。

机の上に乗っていた彼の作品らしき絵を見つけた。彼に尋ねると見せて説明してくれた。例えばこんな感じ。

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なにかの報道写真をベースに木彫りで作ったという。とても大雑把なコメントしかできなくて恐縮なのだけど、社会派な人なのだなと感じた。ヴィーガン食を好んで、電力はソーラー。学生の頃から自分の関わる人はそんなことに関心のある人が多くなる。地球の裏側に来てもその感じは変わらない。

23:30、あそこから空はどうなるのだろうと見にいくとまだうっすらとだけ明るかった。すごいなあ。

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マクシーが二人分の晩ごはんづくりをはじめた。

灯りはキャンドル。やっぱり徹底している。


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人参を不思議な見たことない器具で薄くスライスする。
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手際は良い。揚げ物までしている。キャンドルの小さな灯りで、うっすらとしか照らされない彼の顔とキッチンが醸し出す隠れ家感がたまらない。日本から逃げ込んだオンボロの流浪人はワクワクしてしまう。

待っている間は部屋に置いてあるマクシーの愛読書と思しき本たちのタイトルを眺めた。スペイン語の本はもちろん、英語の本も並んでいた。詳しくは覚えていないけれど、地球や世の真理を探求できそうな雰囲気の本が並んでいたと思う。その中でなぜか英語のリンカーン伝記っぽい本を少し開いて読んだりして料理の出来上がりを待った。

「好きなの読みなよ」と親切に声をかけながら完成した料理を持ってきたマクシー。

こんな感じのワンプレートになった。
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味のことをよく覚えていない。すごくさっぱりしていたのは確かだ。揚げたものがとても好みだったような気がする。そして何より、沁みた。作っていただいたご飯だ。

食べながらぽつぽつ話す。英語でも必要最低限の会話しかできない自分では、こんな時にしたくなるような、深く相手の人生に入っていくような会話を自分から振ることができない。

それでも、このブログでは書けないような個人的な込み入った話も聴かせてもらった。ひとつここで言えるのは、彼もまた、自分とはまた異なる次元の数奇な人生を生きているということ。それが乏しい英語のやりとりの中でも感じられた。

「ワインは好き?」

彼には深夜に行きつけるバーがあるという。

この時、既に日付をまたいでいた。眠れていなくはないが快眠とは言えないエセイサ空港の休憩スペースでの朝6時にはじまり、たくさん移動を重ね、色々気疲れするような考えも巡らせている。とても疲れているはずだったのだけど、とても気分が高揚していて二つ返事で彼と共に夜の町に出た。

辺りはすっかり暗くなっている。小雨が降っている。白い吐息が目に映る。荷物を持たずに歩ける気持ち良さ。伸びをしながら歩く。日本のものより少し暗くて間隔が広めの街灯。雨露に濡れて光を反射する道をマクシーと並んで歩く。途中、野犬が元気な鳴き声とともに歩み寄ってきて絡んできた。

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これはやっぱり野宿では危なかったかもしれない。改めてこの恩人に心の中で手を合わせる。いろいろ融通を効かせてもらった上に、ご飯まで用意していただいた。申し訳ない気持ちも湧いてくる。あんまり気にすると頭が痛くなるのでなにも考えないようにした。

ゆっくり歩いて、だいぶ海の方に降りてきたと思った頃に到着したのはこちらのお店。

The Birra Ushuaia

狭めだ。洒落ている中に、ちょっぴり感じられる素朴さが心地よい。こんな時間でも、いや、こんな時間だからかな。男女のペア。5〜6人のグループ。けっこうお客さんがいる。これがアルゼンチンの人々の夜か。。やっぱりボロボロ身なりのアジア人に向けられる視線を気にした。マクシーと一緒だから楽しめるけれど1人じゃまず来れないだろうな。

2階に上がってカウンター席に腰かけた。ボトルワインと、おつまみを注文するマクシー。こんな恩人に付き合えるならといくらでも払うつもりでいたけれど、またしてもご馳走してくれるようだ。

マクシーはさんざんWi-Fiを気にする自分にこのお店でも繋がることを教えてくれた。ようやく通信できる。朝の空港での投稿からほぼ1日が過ぎようとしているこの時間まであった出来事が大きすぎて、ライブ動画で伝えたくなり、隣の恩人にも出演してもらうことにした。

ウシュアイア THE BIRRA より

Tajima Hirohisaさんの投稿 2017年12月8日金曜日

ライブ映像はWi-Fiのせいなのか、何度も途切れ途切れになった。(ここにアップされているものはその部分が自動的にカットされている)その時見てくれる人になんとか伝えたいことがたくさんあったのでもどかしすぎる。が、それも仕方がない。ワインとつまみを楽しむことにした。

(動画で彼が歌っている島唄は、はじめマクシーとの会話で「アルゼンチンで生まれた歌なんだよ」と聴いた気がしたけれど、アルゼンチンで歌った人が居てそれが大ブレイクしたということを後から知った。)

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ほろ酔った帰りの夜道。深夜の3時近い。

彼は唐突ににっこりこっちを向いて笑いかけてきた。

「君と出会えて幸せだよ!」

あてもなく流れ着いたこの地球の裏の最果ての町。

「死んでもいい」と飛び出し

「死ぬかもしれない」と震えた丸腰妄想野郎。

その無様な旅の先には、普段の自分では選ばないようなさっぱりしたヴィーガンプレートが、自然のエネルギーだけで灯る明かりに照らされる部屋が、埃被った部屋に置いてあったマットレスが、そしてこの、目の前で飄々として笑っているひげもじゃの男がいてくれた。

こうして一年経ってからブログを書いている今もはっきりと思い出せる。

2017年12月8日。

今のわたしの原型となった小さな出来事

自分の人生観を大きく変えてしまった小さな出来事。

これがわたしのウシュアイアミラクル。 

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もくじ

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