WWOOFでお世話になった人の家を出発して走りだして夜になった。
今晩の寝場所を探さないといけない。幹線道路沿いのお店や民家を尋ねて回る。
途中でカフェを発見した。もう閉店したらしい。締め作業に当たっている女性スタッフがいた。ちょっと目が合った。
割と見た目の感じでコミュニケーションをとるか判断することも多い。
この人についても、なんとなく良いやりとりにはならなさそうな気がして立ち去った。
その後、ガソリンスタンドでテントを張らせてもらえることになった。
スタッフのお兄さんは話しかけた瞬間から「ハイ、マイフレンド」という気さくな感じで頼み事もすんなりOKしてくれた。
スタッフのお兄さんはとても良い人で、カフェに入って作業を始めるなり、コーヒーとお水を御馳走してくれた。ありがたい。
良いひとと出会えたことを嬉しく思いながら作業をしていたら警察が来た。
「スマホを盗んでいないか?」
警察に少し遅れて男女カップルが入ってきた。
彼女がスマホをなくした本人らしい。
「あなた、あのカフェにいたでしょう?あの時に盗んだんでしょう?」
かなり感情的になっている。
まったく心当たりがない。
「ええ?スマホですか?」
あ、あの締め作業してた人か。
とそこで気がついた。
彼女のカフェとこのガソリンスタンドは同じ道路沿いとはいえよくおれの居場所がわかったな。。
「いや、なにも盗ってないっす。」
持ってる手荷物に自転車に積んでいる荷物を全て開けて見せた。
女性は荷物を見ながら「こっちをあけろ」と指示を出してくる。
全て一つ一つ開けて見せる。
「自分で調べても良いよ」と促すけれどそれはやろうとしない。
ただツンと突っ立っていて指示を出している。
もう完全にぼくを犯人だと確信している雰囲気。
なんだか嫌な態度だなと感じる。
小一時間ほど調べた後、警察官たちは去っていた。
が、カップルの方はまだ食い下がってきた。
女性は何度も
「あなたが盗ったのなら返しなさい!」
と同じ言葉で突っかかって来た。かなり怒っている。
「いや盗ってないって!」
怒気を向けられるのは苦手だ。自分が落ち着かなくなってしまう。
確定してるわけじゃないんだからせめて落ち着けよ、と思ってしまう。
あまりにも疑われると自分がなにか間違って拾っていたりしていないか、とか何かの罠でこっそり荷物の中にスマホが仕込まれてるんじゃないかとか逆に心配になってしまう。
彼の方からも
「今返してくれるなら警察にはチクらない」
「金をやるから正直に答えてくれ」
と食い下がってくる。ムカついてしまう。
「だから盗ってないって言ってんだろ!」
子供みたいな言い合いを続けた後
2人はその場を一度立ち去った。
ガソリンスタンドのスタッフのお兄さんに挨拶をしたかったのにこんな問答を続けているうちに帰ってしまっていた。
荷物を片付けていると二人組はまたやってきた。
彼の方が今度はこんなことを言ってきた。
「お前がスマホを盗んだ瞬間が監視カメラに写ってる。今白状するなら黙っておいてやる。」
ええ!?
と言っても差し出すスマホも持っていない。
「だから持ってないよ!」
すると彼はため息をついて立ち去ろうとした。
あ、監視カメラのことは嘘だったんだ。
そう気がついて心の底から怒りが湧いてきた。
「あんたの気持ちはわかるけど、これはねえわ。」
「ひでえわ!」
2人は何も返してこなかった。
そのままバイクでどこかへ立ち去って行った。
翌朝、同じ女性が近くを歩いていた。
地面を見ながら歩いている。
荷物をまとめてその場を離れようとすると近づいてきた。
彼女の母親らしき人も一緒だった。
「あなたが盗ったのなら返しなさい!」
「盗ったのなら昨日の夜のうちに逃げてるよ」
母親らしき人が彼女を嗜めてようやくその場を立ち去って行った。
今にして思えば大変だったろうなと思う。スマホだからもちろんいろいろと困っただろうし
買い換えることができたとしても、たくさんの写真とか、取り返しのつかないものもあったかもしれない。
そういう彼女の切迫した感情を汲み取って穏やかに接するなんて神様のような対応はできなかった。今ここから祈っておこうと思う。
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